第29話 誕生、特別アドバイザー
アリスは無言でリアムの真意を探ろうとしていた。
アリスは五組の人間が四組はともかくとして他の組に勝って決勝ラウンドに出場できると言っているリアムの正気を疑っていた。
決勝ラウンドに進むのは大体一組、二組、三組の内のどれかのクラスである。
数年前に四組が決勝ラウンドに進んだことがありその時でさえ奇跡と呼ばれた。
そのあと四組の担任は三組の担任へと上がることができた。
「…私の聞き間違いかな?五組が決勝ラウンドに行けるって?」
とアリスが教室のざわざわをわずかに突き抜ける声で尋ね直した。
次の瞬間、すっとざわざわ音がフェードアウトしていく。
クラス中の人間がリアムが続いて言うであろう答えを聞こうと静かになった。
リアムはその状況には何故か気付かず
「いや合っているよ、全ては無理だろうし、運も関わるけど練習量次第でいくつかは勝てるはずだ」
と割と自身げに答えてしまった。
たしかにそれなりの自信の元に発言したがこの後、自身げに答えたことを後悔することになるとは予想していなかった。
リアムの言葉を聞いて理解するまでに生じたわずかな時間、沈黙が教室を支配した。
「その話、詳しく聞かせてくれないかな?」
キールがその沈黙を破り頼む。
そこまできてようやくクラス中に発言を聞かれたことを理解したリアムはアリスを睨むような目つきで見る。
「わざとだな?」
とアリスをわずかに睨みを強めながら聞くが続きを促す周囲の目があるため、答えを聞き出す時間はなかった。
「リアムくん?おはなし聞いてもいい?」
と返事をしないリアムを心配するようにサナが尋ねた。
リアムは諦めて立ち上がり
「先ほども言った通り運と練習量次第では決勝ラウンドへの進出が可能な種目もあると思います」
といった。
これ自体は全く嘘ではない。
体育祭は一種目にクラスからAグループ、Bグループの二グループ出場しグループ上位2位までが決勝ラウンドに進むことができる。
優秀な人材をA、Bどちらのグループに出場させるかなどの戦略というか運が絡んでくる。
体育祭の内容を確認した際に実際に去年のものを見たのだが全てのクラスが能力の押し付け合いで勝負しており、戦略性や種目の意図を汲み取れている試合が無かった。
そうなれば種目にもよるが五組で合っても優勝は厳しくとも決勝ラウンドぐらいであればギリギリ出場可能だと思っていた。
「それは素晴らしいわ、そうねぇ……特別アドバイザーとして体育祭の練習を主導してくれない?」
とサナがとんでもない提案をした。
リアムとしては目立たず、何の役職にも何の種目にも就かずにただゆっくりとおそらく試合に出るであろうエマの試合を観に行くつもりだった。
こんな特別アドバイザーなどという役職に就くと面倒なことになるのは避けることができないだろう。
だが、クラス中の視線と期待が集中している状況ですっぱり断れるほど非情にはなれなかった。
「いえ、そんな大層な役割、必要ありません」
とやんわりと断ろうと努力する。
「いや、必要だ。君が我々を決勝ラウンドに導いてくれるというのなら五組はそれに応える。特別アドバイザーの役職はその一つだ…ですよね、先生?」
キラーンとキールの目の横に一瞬輝きが見えた気がした。
サナは少しの間黙った後、
「そ、そうねっ!そうそう、リアムくん謙遜しなくてもいいのよ」
と明らかに動揺しながら言葉を発した。
生徒全員が“あっ、これは違ったパターンだ”と察した。
「よろしく、お願いするよリアムくん」
とキールが頭を下げて言う。
すると、
「よろしく!」
「お願い!」
「決勝ラウンドに連れて行って!」
とその言葉に続くように生徒が次々に叫んだ。
いつもは腫れ物に触るような態度を取っているクラスメイトが様子を180度転換して持ち上げる態度を取っていた。
ここまでくるとやんわり断ることは不可能だろうし、無理矢理断れば今後の学生生活に支障が出かねない。
リアムはその雰囲気に呑まれることなく特別アドバイザーを断りきることができなかった。
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