体育祭の光と影編

第28話 体育祭の準備

先の事件から何事もなく一月ほどが経った。

特に上位クラスにいる学生にとっては下に落ちるリスクをもつ地獄であり、上に上がるチャンスでもある中間試験も何事もなく終わった。

クラス替えは学年が上がる時に行われるが、すべての試験の結果を用いてクラスが決まるので特に一組と上のクラスに上がりたい人間にとっては気の抜けないものだった。

加えて、担任にとっても生徒と同じことが言える。

シューラ学園は魔導学園であるが故に魔導実技のテストがクラス分けに最も影響を及ぼすので魔導実技の日は生徒、教師関係なく学園中がピリピリしていた。

ちなみにリアムは上の組になんとしてでも行きたいという上昇志向は持ち合わせていなかった。

そのため中間試験は補習に引っかからないレベルの努力でやり過ごした。

と、いってもそもそもリアムの基礎スペックはギリギリなので猛勉強といかなくともかなりの訓練は必要だったが。


そして、おそろしい中間試験から解放された学生達は今、一つの話題で盛り上がっていた。

数ヶ月後に行われるオルフェ王国の主要や魔導学校、魔導学園が一番を決める戦い、“魔導学校対抗戦”の出場者を決める選考会に当たる大会である“体育祭”が数週間後にあるのだ。

体育祭は教師にとっても学生にとっても自分自身とクラスの力を示す重要な機会である。

この後、その体育祭に向けて誰がどの種目に出るか、練習はどうするか、そう言った話が行われる予定となっている。


「リーアム、テストどうだった?」


と赤い髪が特徴的なアリスが今後のことを考えボーっとしていたリアムに話しかけた。

アリスの様子を見るに彼女はそれなりに自信があるのだろう。


「まぁ、それなりにだな」


リアムは当たり障りのない答えを返しておいた。

リアムはまあ、補習に呼ばれることはないだろうと思っていた。


「…レオは話しかけてこない段階でお察しね」


とアリスが苦笑いしながら言った。

その言葉を聞いたリアムはレオンの方に視線を向けた。

彼は机に伏せており、その姿は悲しみに満ちていた。


「……うん、あれはそっとしておいた方がいいな」


「そうねぇ、いつもうるさくても、静かでも面倒なやつだなんてズルだよ」


とアリスが呆れた様子を見せた。

たしかにレオンが話しかけてこないと調子が狂うなとアリスに心の中で少し同意した。

この一ヶ月と少しの間でレオンの性格に当てられて毒されたなとリアムは小さく笑った。


「そんなことより、体育祭どう思う?」


「どう思うって…無事に終わればいいなかな」


とリアムはアリスの発言の意図がわからず額面通りの答えを返した。


「まぁ、あんなことがあったばかりだからね…でもそうじゃなくて五組が出る意味あるのかなって」


リアムは二度目もアリスの言葉の意味がよく掴めず黙ってしまった。

アリスはそんなリアムの様子を見て


「五組って記録が残っている中で一度も決勝ラウンドに進出したことがないんだって」


体育祭は人数に応じたグループで予選ラウンドが行われ、1グループ1人から2人が決勝ラウンドに進むことができる。

体育祭における五組の扱いはいわゆる噛ませ犬、引き立て役でしかない。

リアムは黙ってアリスに続きを促した。


「ここって一応国内最大の魔導学園じゃない。来賓も毎年位の高い人たちが何人も来ているわ。…そんな人たちの前でただ潰されるのよ」


アリスの目に怒りのような感情がが見え隠れする。

リアムは盛り上がる周囲の人間とは違う考え方に聞き入っていた。

そこへ教室の扉が開き担任が入ってきた。

担任のヒューイは襲撃事件の際に暗殺されてしまった為、新たな教師が担任として赴任してきた。

今はサナと言う名の若い女性教師が一年五組の担任である。

ヒューイとは対照的でやる気はあるがおっちょこちょいでちょいちょいミスをしている。

そんなところがいいと既に一部の生徒に密かに好意を寄せられている。


「はーい、ホームルーム始めるから座ってー」


と明るくハキハキした声に従うようにガタガタと音を立てながらみんな座席についた。

サナは黒板にすらすらと綺麗で整った文字を書いていく。


「はい、という事で私も皆んなも初の体育祭です。今から種目への出場者を決めたいと思います」


書き並べられた文字は全て一年の種目は“スティールポイント”、“ポゼッションスター”、“コントロールポッド”、“サーチアンドコレクト”、“コレクトアンドディフェンス”の5つである。

リアムは事前にエマが出場しそうな種目はなにかと考えるために大体は予習してある。


「えーっと、出たい人が前に書く方式でいこうかしら」


とサナが提案すると教室の中央の方から手が挙がる。

サナはその生徒に気付き、


「キールさん、どうぞ」


と名前を呼び指名する。

キールはクラスの中心的な存在で四組にいてもおかしくない実力を持つ人間である。

眉目秀麗、成績優秀であるキールはおそらく一年五組の女子から最も人気であろう。


「五組が決勝ラウンドに進んだことないというジンクスを覆したい。五組になんて負けないなんて思っている奴をみんなで見返そう!」


キールの威勢のいい声が教室を支配した。

そのあと少しして賛否二つに分かれた声がポツポツと生まれ始めた。

生まれた声が重なり合って不協和音ノイズとなってざわざわとうるさくなる。

サナが静かにさせようと声を出すがノイズに飲み込まれ、生徒に届くことはなかった。


「無茶なこと言っているわね」


とアリスが呆れた顔でリアムに向けて言った。

リアムは少し考えるようにする。

予習した内容を思い出す。

そして、


「決勝ラウンドに進出するだけなら不可能ではないだろ」


とアリスにとって意外な返事が返した。

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