第25話 この騒乱に決着を
リアムの体は重力で地面へと引き寄せられる。
足が接地する。
斬り込むための踏み切りを行う。
いかに【アイアン・フィスト】で防がれても次は負けない。
構えられた刃がカタパルトを打ち出すかのごとく放たれる。
それは予想通り【アイアン・フィスト】で弾かれる。
火花を散らして押し付けあう刃と鋼鉄の腕。
リアムが次の一撃を繰り出すためにわずかにているとの距離を取ろうとした瞬間
「時間切れだ」
と言うテイルの勝ち誇った声の後、突風がエグゼの門に向かって吹き付けてきた。
リアムもテイルもバランスを崩し攻撃タイミングを失う。
リアムはブレードを落としてしまう。
リアムはそれを拾い上げることなくそのまま突進する。
テイルもバランスを崩していたため対処が間に合わず門に叩きつけられる。
門の施錠が解除されていたらしく扉が開く。
テイルは笑いながら扉に体重をかけてどんどん開いていく。
「君の負けだ、リアム・アーキタイト!エグゼの門は開かれた」
勝ち誇った顔で“さあ、絶望してみろ”と言いたいような口調でテイルは宣言した。
しかし、絶望の混じった顔を浮かべたのはテイルだった。
扉の奥から何かが体を掴んだ感覚にテイルは青ざめた顔を見せた。
「生まれ出でよ岩石」
テイルは焦りながらも下位の魔導のため、なんとか詠唱しきる。
自身の四肢を岩石で拘束したテイルに無数の黒い手が内側に引き込まんとしている。
「あんたの負けだ、テイル」
「どうしてだっ!解除術式は完璧だったはず…」
「そうだな、秘匿術式も疑ってかかっても気付きにくいほどに綺麗に発動してたよ」
テイルは自分の作戦をこのただの
::::::::::::::
時はエマが攫われるさらに前まで遡る
リアムはエマの安全を確保するために怪しいところを捜索する用事を済まそうとしていた。
普段なら警備が厳しく確認が難しいところも今日なら簡単に見に行ける。
リアムはカグヤから受け取った魔石に魔力を流し、校内の縮図の中に表される魔力残滓の量を確認する。
目的地は魔力残滓が感知されなかった場所だ。
本来、魔術残滓の無い場所を疑うようなことはしない。
普通、魔力残滓がないと言うことは魔導が使われていないことを示すからだ。
だが、ここはオルフェ王国最大の魔導学校であるシューラ魔導学園だ。
周囲の魔力残滓の影響すら受けていない場所はむしろ怪しいと判断できる。
リアムがその部屋に入る。
机や椅子が重ねられ押し込まれるように部屋の隅に置かれている以外何もない。
ここまで綺麗に秘匿されていると解析系の魔導に優れていないと炙り出すのは難しい。
が、リアムにはホロウがいる。
ペンダント型になっているホロウからでかい水滴が数滴落ちる。
並みの秘匿術式ならホロウの相手ではないが今回は少し苦戦しているらしく時間がかかっている。
『これはなかなか入り組んだ術式だな…でもこれくらい楽勝だぜ』
と勝ち誇った声とともに術式を描いた魔方陣が浮かび上がる。
流石に無数にある術式の中で何か特定できるほどの知識はない。
それでも術式のタイプぐらいはわかる。
これは複数の術式を持って
「やっぱりか」
リアムはなんとなく予想していた結果に溜息をついた。
こういったタイプの術式は大規模術式を複数に分けたものであり大きな面積がなくても小分けにして大規模術式を扱えるというメリットがある。
しかし、複数ある術式の内、一つでも動作不良を起こせば全体に影響を及ぼすことになる。
つまり、小分けになった術式が一つでも見つかればアウトということだ。
術式に干渉する行為はかなり高位の魔導が必要になる。
ただ、それには例外がある。
起動前の魔方陣だ。
起動前の魔方陣はただ魔力を通しやすい物質や触媒を用いて描かれた絵に過ぎない。
そこに魔力を通しやすい物質で描き足してやれば別の術式に変えることができる。
「お絵かきの時間だな」
とリアムが無邪気に呟きながら左手の親指を噛む。
傷口から出た血を使って魔方陣に描き足しを施す。
それは才能のないリアムでも変わらない。
このお絵かきで結果は分からないが正しく術式が起動しないことは確定した。
それでとりあえず安全と判断したリアムは外に出て別の部屋に移動しつつカグヤに連絡することにした。
::::::::::::::
かなり前のことを思い出しながらリアムはテイルを見る。
テイルは忌々しげな表情でリアムを睨む。
異界化した背後から迫る手で徐々に内側へと引き込まれていくテイル。
「あんたの敗因は俺の妹に脅威が及びかねない時に作戦を実行したことだ」
リアムは冷徹な表情の中に怒りに満ちた瞳をのぞかせながら、蛇腹剣化したホロウを振るい手足を扉と地面に留めている岩を砕いた。
テイルは異界化した空間に引き込まれていっき姿が完全に見えなくなった後、扉が独りでに閉まった。
「これで全部終わったか…あー、疲れた」
最後の気力も途絶えリアムは地面に倒れこむ。
アドレナリンが切れて意識も朦朧とし始める。
『ホロウ、もう一つ仕事がある。一応、結界を普通の
ホロウが優しく語りかける。
流石にホロウを通信機として扱うことはできない。
リアムは最後の気力を無理矢理ひねり出し魔石を起動させた。
「カグヤさん…結界を破れるレベルまで緩和しました…後はお願いします」
そう言った後、リアムは意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます