第24話 最後の敵
リアムは炎獅子が意識を失ったことを確認した後、急いでエグゼの門へと向かった。
全身は切り傷、刺傷、火傷と満身創痍を体現したような状況のため少し時間がかかってしまった。
【フィジカル・ブースト】の効果も切れてしまい全身が何十キロものウェイトを全身に着けているかのごとく重い。
エグゼの門は地下への階段を降り少し真っ直ぐ進み右に曲がるとある。
そこまで歩いて曲がり角を曲がった瞬間、エグゼの門と最後の敵が目に入った。
相手もリアムの存在に気づいた。
「アーキタイト…。どうしてここに?」
ヒューイがリアムを睨みつけながら尋ねる。
「ヒューイ先生のモノマネは必要ないですよ」
リアムはそれに分かった風に振舞いながら言い返す。
ヒューイの表情が微妙に動いた気がした。
「ほう、担任に対してモノマネしているとは…ひどい言いようじゃないか」
「一つずつあんたの化けの皮を剥がしてやろう。まず、ヒューイ先生は今、魔導学術学会の会場にいて生徒会の引率をしているはずだ」
「代役を頼んだと行ったら?」
「なら二つ目だ。そもそもどうしてそのままの姿を生徒に見せた?先生になれるほどの
リアムはそう問いかけながら最小限のモーションで作り出したナイフを腕めがけて投げる。
ヒューイは返事を考えていたのか反応が遅れ腕にもろ直撃してしまう。
腕に刺さったナイフが引き抜かれる。
すると腕から血が溢れ出る。
問題はそこではなく腕の傷が土の塊に攻撃したかのような割れ目のようになっていることだ。
ヒューイは慌てて腕を押さえ傷を隠しながら修復しようとする。
その間にもう一本ナイフを投げつける。
またも反応が遅れたヒューイは腹に攻撃を受けてしまう。
また傷口が割れ目のようになり土のようなものが溢れでている状態になっている。
存在を誤認させる魔導は大きく2属性存在している。
一つが【アナザー・ミラージュ】などの天属性魔導。
もう一つが【スタチュー・パーソン】などの土属性魔導。
天属性魔導は光を歪めることで誤認させるため物理的な解除は不可能だ。
一方で土属性魔導は体に他者に偽装したものを纏うため物理的な干渉を受けるとボロが出る。
「かまをかけたな、見事だ。
リアムは攻撃を警戒して身構えるが予想に反して後方で魔導が起動した。
【フェルス・ヴァント】と呼ばれる壁を作り出す魔導で退路を遮断したらしいかった。
どうやらヒューイ (偽者)はリアムをここで殺し正体をバラされないようにするらしい。
リアムのことをアーキタイトと呼ぶあたりおそらく名家の人間としての発言力を警戒しているのだろう。
「本当にムカつくなリアム・アーキタイト…種明かしだ」
ボロボロと皮膚が剥がれるが如く
リアムが予想していた人物だった。
「やはり、テイル先生でしたか」
「どうして俺だと気付いたかご教示願えるかな」
「簡単ですよ、まずこんな大掛かりな作戦で目撃者を生存させて行動することが不自然だっただけです。加えて、ヒューイ先生は信頼の置かれていたことを考えると補講の通知も正しいものだと言ってもおかしくない。なら容疑者はテイル先生…あなたしかいないでしょう」
「とんだ名探偵がいたもんだ
石槍よ!」
【ブレード・イグニ】の土属性版である【フェルス・シュピア】が起動する。
【フェルス・シュピア】は【ブレード・イグニ】よりも一撃の威力は大きいが精度が低い。
【フェルス・シュピア】が腕に直撃しようものなら肩から下がなくなるほどの威力がある。
そんな石の槍四発が続けて発射される。
リアムは即座に自身に脅威となる石槍の位置と数を認識する。
迎撃可能と判断したリアムは刀を作り出し斬りおろし一発目を破壊し、すぐに刀を持ち上げ突きで二つ目を砕く。
残りの二発はリアムの少し横を通り抜け地面にぶっ刺さる。
土属性魔導は基本的に物質生成系であるため石槍はその場に残り続ける。
つまり攻撃を受ければ受けるほど足場が変化していく。
「我が身に力あれ」
もはやボロボロの体を普段レベルまでしか引き上げられなくなった【フィジカル・ブースト】を起動し一直線に走る。
「石槍よ」
テイルは【フェルス・シュピア】を起動しリアムを止めようとする。
いかに精度の低い魔導であるとは言え接近すれば命中率は勝手に上がる。
「ホロウ、シールドっ!」
リアムの叫びに呼応して高密度のシールドが展開され【フェルス・シュピア】を止めるために立ちはだかる。
ガガガッ!と石槍がシールドに突き刺さり砕ける音が響く。
シールドはヒビが入りながらも攻撃をギリギリ耐えきった。
ただ、シールドも刺さった石の槍も消えないので進み続けるには障害でしかない。
そのためリアムは左足を軸にして回転し方向転換する。
訓練された素早い動きで再接近するリアムにたかが学生と舐めていたテイルの反応が一瞬遅れる。
その瞬間の隙が近接戦の間合いへと詰めさせてしまう要因となった。
しかしテイルも素人ではない。
すぐに接近戦の意識にシフトし
「剛腕よ」
と【アイアン・フィスト】の詠唱を行い鋼鉄で包まれた右腕でリアムの剣撃を防いだ。
詠唱が不要な単一系魔導で足を加速させリアムの腹に重い一撃を打ち込む。
リアムは衝撃をうけ流せず後方に吹き飛ばされる。
「あの近接戦へのシフトスピード、蹴りの鋭さ…手慣れているな」
舐めている相手を崩していると考えていたのにも関わらず相手を低く見積もっていたリアムは自責しながらテイルを睨む。
『近接の冴えが想定を超えたな、修正しろよ』
と素早くホロウが答える。
【フィジカル・ブースト】の効果時間の限界も近い。
身体能力の向上がなくなれば先程のような接近戦に持ち込むのが難しくなる。
つまり決めるなら次の一手だ。
リアムは瞬間的に攻撃ルートを予測する。
直進……だめだ、現段階の身体能力では遠距離魔導に対処できない。
左右壁蹴りでルートを歪ませる……だめだ、精度の高い魔導で対処されればシールドが邪魔で壁蹴りができなくなる。
ジャンプ又はしゃがみで魔導をかわす……だめだ精度の低い魔導を正確に予測しきれるほど余裕も能力もない。
「行くぞ、ホロウっ!ここで全部使い切るっ!」
リアムはルート予想を止め、一気に右の壁に向かって直進する。
「石槍よ」
テイルは【フェルス・シュピア】を起動する。
狙いはそこまで正確には付けずに魔導を放つ。
それでも一発、リアムに当たらんとしていた。
それはホロウがリアムの呼びかけなしでシールドを張り、防いだ。
テイルにもリアムにも防ぐことは分かっていた。
次の一撃こそが本命だ。
「鋼鉄の魔弾よ!」
高精度土属性魔導として有名な【アイアン・バレット】が起動する。
ただし、この魔導は速度が少し遅い。
そのため、テイルは偏差撃ちでリアムの少し前、壁際に向かって【アイアン・ バレット】を撃ちだした。
足を止めれば別の魔導に撃ち抜かれ、動き続ければ【アイアン・バレット】にやられる。
リアムは足を止めずにジャンプする。
力を入れて足を引き寄せると同時に阿吽の呼吸で空中に足場が生まれる。
それを蹴り付け鋭角に方向転換する。
後は直線勝負、ここまで持ち込むことができれば遠距離魔導の距離から脱し、近接戦に持ち込める。
「今度は油断しないっ!」
リアムは決意に満ちた声で吠えた。
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