第18話 刹那の勝負

暴れ狂う猪のごとく迫り来る雷を帯びた砲弾、その前に立つ黒く輝く黒刃の使い手。

黒刃の使い手は背後に攻撃を逃さないために何度も何度も速く速く斬り続ける。

【フィジカル・ブースト】によって身体能力を強化されたリアムが振るうその刃の速さは人間に認知できる領域を超えるほどで残像が見えるほどである。

数秒に渡る斬撃ののち、【ライトニング・ブラスト】は静電気レベルの攻撃力しかない細切れの電気となった。

そうなってしまえばどんなに高火力な魔導でも無力化されたに等しい。


「ホロウ、足場っ!」


相手が魔導を無力化されことを認識するまでの一瞬の隙間を縫うようにリアムが叫ぶ。

足場を強く蹴り、空中に飛び出たことで【アーリ・コラプス】でできた穴を無視することができた。


ぇ、ぇ、ぇ」


とジャンはリアムを迎撃するために連射詠唱を使うことなく【パルス・アウト】を連射する。


「ホロウっ!」

『わかってるよ』


リアムの呼びかけに答えるようにシールドが【パルス・アウト】の射線上にピンポイントで現れ、三発とも防ぐことに成功した。

穴を飛び越え地面に足を着く。

ここまで来ればあと一歩踏み込むだけで確実に刃が届く。

いかに【パルス・アウト】が速かろうと狙いを合わせる前に叩っ斬れる。

狙いの合わせる必要のない範囲攻撃や防御魔導ならなんとかなるかもしれないがいかに短縮しても詠唱が間に合わない。


「勝ったと、思っただろぉ?…“解凍メルト”」


リアムが足を出そうとした瞬間上方に魔力の流れを感じた。

解凍メルト、これは魔術式を基底状態で維持する凍結フリーズという技術を解除するときの詠唱である。

かなりの技量と魔力消費が必要であるが凍結フリーズさえ出来ればどんな魔導でも高速で起動できる。

起動したのは範囲内に雷を振らせる範囲攻撃魔導、【フォール・ライトニング】である。

雷の当たり方次第では相討ちもしくは相手のみを倒せる。

さらに、上を見なければ視認できないのでどういう理屈か不明なシールドも使えないはずだ。

そう考えたジャンはニヤリと笑う。

魔法陣が展開、一発目の雷が降る。

さらに不幸なことにその一撃はリアムの頭を穿たんとしていた。

このままいけばリアムが先に倒れる。


「甘いな」


リアムは短く呟きながら刀を振るう速度を上げる。

ただ、どれだけ加速しようとも雷の方が早い。

しかし雷はシールドによって防がれる。


そもそもシールドはホロウが展開している。

リアムが見ている方向がホロウの見ている方向とは限らない。

言ってしまうと今、ホロウは中央校舎1階、2階を完全に網羅している。

特に所有者リアム周辺で起こることを見逃すはない。


そのまま刀はジャンの肋骨の下あたりを肉を掻っ捌いて斬り払った。

湧き水のごとく吹き出す返り血を浴びながらリアムはジャンの背後に抜けた。

ジャンは痛みに耐えられず意識を失い、自分の作り出す血だまりにうつ伏せで倒れた。

リアムはホロウの刀を解除してネックレスに戻した。


『はっ、でかいのは威勢だけだったようだな』


とホロウがバカにしたように笑う。


「まぁ、そうだな。

…清純な妖精よ・我がよごれを祓いたまえ」


と返事をしながら、返り血で右半分が血で赤く染まったシャツを見て浄化魔導、【ライニング・ミー】を起動した。

リアムの周りに精霊にも見える翠の光球が飛び回り、シャツがみるみる綺麗なホワイトシャツに戻っていった。

魔導と完了を確認したあと


「エマ、無事か?」


と振り返りながらエマに尋ねた。

エマはぶかぶかなリアムの服の袖をキュッと掴みながら


「うん、大丈夫。ありがとう、兄さん」


とお礼をいう。


「何があった?」


リアムは冷静にジャンに出血死を防ぐための止血の魔導をかけた後、エマに使われていたものと同じ魔導の起動を封じるロープで拘束しながら尋ねる。

魔力の流れを吸い取り地面に流すロープは術式の成立を阻害するためいかに優れた魔導師ウィッチャーであろうとも物理的な抵抗以外が難しくなる。


「その人とヒューイ先生ともう一人が急に教室に入ってきて…教室がその人たち以外魔導が使えなくなって…みんなロープでくくられて…ここに連れ込まれて…」


エマは頑張って話を伝えようと努力するがあまりまとめられていない。

しかし、リアムはエマの発言からしっかり情報を汲み出した。


「なるほど、じゃあこちらの情報も共有しておこうか」


「お願いします、兄さん」


エマは笑顔でそう言った。

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