第16話 襲撃者ヒューイ

迎えた初の休養日

だが、リアムとエマは学園に向かっていた。

そう、補講の日だ。

休養日なのに加えて春季魔導学術学会であるため学園には本来、人がいない。

警備魔導が起動しており人を中に入れない日のはずなのだ。

カグヤの報告によれば警備魔導は許可を受けた教師しか解除できないようなシステムになっている。

リアムとエマが学園に到達した時には警備魔導は解除されていた。

つまり、エマの担任であるテイルがすでに学園に到着しているということだろう。


「あ、エマちゃん…とお兄さん」


と下駄箱前で靴を履き替えているリズが声をかける。

本来ならいるはずのないリアムの姿を見たリズは不思議そうな瞳を彼に向けた。

リアムはリズの視線の意図を悟り


「休養日でやることがないから散歩がてら付いてきたんだ」


と言う。

リズはその言葉を聞いて納得したように頷いた。

そして、リアムとエマ、リズは玄関で別れた。


「さて」と呟きながらリアムは前にカグヤから貰った双子石に魔力を流す。

ホロウはホログラム的に空中に投影された学園の図を見ながら歩き始めた。


::::::::::::::


エマとリズは時間に余裕を持って教室に入ることができた。

卒業生のクラスルームがそのまま一年の教室になるので二階という中途半端なところに一年一組は存在する。

座席は初めから決まっているのでそこに座る。

エマの席は真ん中の列の前から2番目と割と目立ちそうな席である。

リズの席はそのすぐ後ろにある。

エマは机の上に教材、筆記具を出して講義の準備をした。

ちょんちょんと可愛らしい何かがエマの背中を突く。

エマはゆっくりと振り返りリズを見る。


「入学してすぐに補講なんてね」


とリズはエマの周辺にいる人間だけが聞き取れるボリュームで話しかける。

エマは頷きの後に


「そうね、でも新入生歓迎会で授業が潰れちゃってるから仕方ないのかもね。仮にも私たちは一組なんだから」


と言葉を返す。


「うぅ、私には一組の荷が重いよぉ」


「そんなことないわ、実技試験のときの集中力は周りよりも頭一つ抜けていたわよ」


「それは私が緊張しやすいから無心でできるまで練習しただけで…」


「その努力が一組たる所以よ間違いなく」


とエマが力強く言う。


「そ、そ、そ、そんなことっ。あーそうだ!お兄さんはもう帰ったのかな?」


とリズが話をそらすように尋ねる。


「あぁ、兄さんなら多分帰ったんじゃないかな?」


唐突な話題転換に困惑しつつエマは言葉を返した。


「おうおう、若いのが集まってんねぇ」


教室にいる人間の誰一人知らない声が生徒全員の耳に入った。

視線が声の主に集中する。

そこに立っていたのは赤髪の男。

例えるならチンピラと言った雰囲気の男だった。

その男は鋭い目つきで教室を見回す。

そのチンピラの目線が一瞬エマとあう。

エマはその異様な目つきに血の気が引いた。


「おい、ジャン。余計な真似はよせ、過剰な干渉は不要だ」


後ろからもう一人、黒髪の男が現れる。

その黒髪の印象は感情の変化が乏しい、真面目そうと言った感じだ。

チンピラも真面目そうな男どちらも知らない男だった。


「うるさいな、ロック。どうせこいつらはただの資源だどう絡もうが勝手だろ?」


「二人とも、目的を忘れるな」


さらにもう一人男が現れる。

そこには人一人増えたということ以上の問題があった。

それはその男は見たことがある人間だったと言うことだ。

リアムのクラスの担任であるヒューイがそこにいた。


「ヒューイ先生?どうしてここに?」


クラスの誰かが立ち上がり声をあげた。

ジャンの顔がニヤリと歪む。


「あー、こいつらまだ気づいてねぇのか。平和ボケした学生様の頭脳はさすがだぜ。補講と聞いただけでホイホイとなぁ」


その言葉の意味を理解した生徒は絶句した。

ヒューイは連絡係の立場を利用してほかの講師がいない日に補講をでっち上げたのだ。


「いくら教師といえど俺たち全員が抵抗したら無事では済まないぞ」


ジンが立ち上がり反抗的な言葉を向ける。


「はははっ!抵抗?やってみろよ?」


とジャンが大声で笑いながら挑発する。

ジンは指先をジャンに向け


「集いし紫電よ・敵を穿て!」


【ボルト・スピア】の詠唱を完了させる。

しかし、魔導は発動しなかった。


「魔導を詠唱して使うものと思っている奴は【スペル・ジャミング】一つで制圧できるんだよ。課外授業だ、魔導ってやつの扱い方を教えてやる。

稲妻の道よ」


軍用魔導である【ライトニング・ブラスト】の術式を一節詠唱で完成させたジャンの手のひらから稲妻の砲弾が放たれる。

壁に突き刺さった砲弾は爆発し、周囲360°に雷撃をばらまいた。


「まぁ、このように詠唱はあくまでも魔導式構成の手助けになるものであると言う認識があれば【スペル・ジャミング】なんて意味はない。…どうだ?俺も教師いけんじゃないか?」


ありえない威力に放心状態の生徒に向けて話しかけるが誰も聞いていなかった。


「【スペル・ジャミング】の効力も確認した長居は無用だ」


ヒューイが二人にそう告げる。


「どうせ暇だろ?俺はここの生徒と遊んでおくよ」


ジャンがまるで野菜の品定めでもするかのように目線を生徒に向ける。


「待て、こいつらを殺すわけにはいかない」


ロックが冷静に窘めるように言う。


「生徒の一人や二人減ったところで計画に影響はない。好きにさせろ」


ヒューイはまるで無関心といった様子で教室を出て行った。

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