第15話 生徒会のお仕事?
学園生活4日目
休養日前日ということもあり多くの生徒は休みに何をするか話し合っていた。
授業は滞りなく進んでいき最後の魔導学の授業の終了を待つのみだった。
基本的に担任は魔導学、魔導実習の教科を受け持つ教師から選ばれ、その成績で一組から五組までが振り分けられる。
そのため担任は自らの地位を守り、上げるために全力で成績を上げようとする。
五組の担任を除いての話だが。
担任のヒューイはまるでそれらのことに興味がないように教科書を読み上げるマシーンと化していた。
その授業は退屈極まりなく教室の人間の四割が寝ており、五割が眠気と戦うので精一杯で授業を真面目に聞くどころではなかった。
「…以上で今日の授業を終わる」
パタンと教科書を閉じ、ヒューイはすぐに教室を後にした。
「んー、耐えきったぁ〜」
とアリスが伸びをしながら言う。
「教科書丸読みだったがな」
リアムが短く言う。
周りの生徒が次々に教室を後にしていく。
「珍しくレオが静かね、いつもなら授業終わりにうるさいぐらい話しかけてくるのに」
「あー、レオなら…ほら、寝てる」
とリアムがレオを指差す。
レオはよだれを垂らしながらだらしなく寝ている。
「あー、通りで静かなわけだ」
アリスが納得した様子で頷く。
「俺は妹と一緒に生徒会室に行く。レオがこのまま寝てたら起こしてやってくれ」
リアムはカバンを掴んで立ち上がる。
「なんで、わたしが」
アリスは不満そうな表情を浮かべる。
「俺を避けないのがレオを除いてお前だけなのと…俺たち以外が全員帰ったからだな」
リアムは周囲を見る。
リアムとアリス、幸せそうに寝ているレオ以外に教室には人がいなかった。
「いつの間に…わかった。エマさんが待ってるんでしょ?」
バイバイ〜と手を振りながらアリスはリアムを送り出した。
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リアムはエマと合流して生徒会室に入った。
生徒会室には前回訪れた時と同じ人間がいた。
「あら〜、いらっしゃい、エマさん、リアムさん」
サーニャが笑顔で二人を迎える。
周りで資料を確認していたエリカも笑いかける。
ユリウスは資料から一瞬目を離しリアムを見た。
その後、不機嫌そうな顔を浮かべながら資料に顔を戻した。
「何か仕事はありますか?」
エマは周りをキョロキョロと見回した後、尋ねる。
「そうね〜。じゃあ、ここの紙…昨日の新入生歓迎会の感想用紙なんだけど〜、感想と要望、その他に分けてくれる〜?ユリウスくん、二人に紙を渡してくれる〜?」
ユリウスはリアムに紙を渡す瞬間に露骨に嫌そうな表情を見せた。
リアムは見えたその顔を一瞬で忘却し、紙に目を通し始める。
「そう言えば、1年5組の人が1年1組に決闘で勝ったらしいですよ」
書類を整理していたエリカが思い出したようにふと呟く。
それを聞いたエマは誇らしげに笑みを浮かべる。
「その表情、リアムさんがその噂の人かしら〜?」
サーニャがエマを見て尋ねる。
「ええ、兄さんが噂の人です」
リアムがどう返事するか考えているうちにエマが答えた。
ユリウスの眉が不機嫌そうに動く。
「へ〜、やっぱり〜。不思議な色を持っているだけあるわね〜」
サーニャが感心したように頷く。
「色?」
エマが首をかしげる。
「ああ、そういえば言ってなかったわね〜。私いわゆる魔眼持ちなの。周りの人の特性を色として認識できるの」
魔力が脳や感覚器官に影響を及ぼし稀に超感覚を発現することがある。
それが目に現れると魔眼ということになる。
「不思議な色ってどんな色なんですか?」
リアムは疑問に思い質問する。
「普通は一人にその人の性格を示す一つの色が見えるんだけど、リアムさんの場合は胸元のあたりに別の色が見えるの」
リアムはもう一つの色がホロウであることを察した。
ホロウは魔導具(ウィッチクラフト)でありながら自我を持っている。
彼女の魔眼がその自我を捉えたのだろう。
バンッと静寂を保っていたユリウスがいらだたしげに机を叩き、立ち上がった。
「なんなんだ!みんな、こいつの話ばっかり!こいつはそもそも生徒会役員ですらないし、1組に勝ったのもまぐれに違いない!俺はこいつがこの部屋にいることを認めません」
怒気の混じった言葉を一気に言い終えた後、ユリウスはリアムをにらんだ。
「ちょっと、ユリウスくん?それは言い過ぎよ」
ユリウスの迫力に押されながらもエリカがたしなめるようにそう言葉を投げる。
「いいですよ、全て事実ですので」
これ以上空気が悪くならないように細心の注意を払いながらリアムが発言する。
ただ、それよりも注意しないといけないのはエマだ。
今でも魔力を漏れ出しながら威嚇するような目をユリウスに突き刺している。
これ以上、不機嫌になると暴走しかねない。
自分(リアム)のことで怒ってくれるのは嬉しいがそれで面倒が起こるのは望んではいない。
エマの不機嫌の理由は明確にはわからないがユリウスを睨みつけているあたり場の空気が悪いことが原因だろうと推測できる。
突き詰めるとリアムがいることがこの状況の原因とも言える。
リアム自身がこの場からいなくなるのが最善と判断し、カバンに手を伸ばす。
その時、
「何を騒いでいる?」
とだるそうな声が聞こえてきた。
全員の視線が声の主に集中する。
声の主はリアムのクラス担任であるヒューイだった。
「明後日の魔導学術学会の話できたんだが…少し時間をくれ」
「あっ、はい〜。別に重要な話していたわけでもないのでどうぞ〜」
サーニャは教師相手でもいつものように言葉をゆるく返した。
「会長、副会長の座席は確保してあるが欠席はないな?」
「そうですね〜、二人にも確認とりましたけど欠席はないです〜」
「そうか、一年一組は補講で行けないからアーキタイトは欠席だな。よし、チケットを配る」
そう言ってヒューイはカバンの中からチケットを取り出し一人一人に配る。
その姿はリアムの予想と異なり丁寧なものだった。
案外、仕事のできる人なのかもしれないとリアムは彼(ヒューイ)に対する評価をわずかに上方修正した。
ヒューイはチケットの受け取りを確認するとすぐに部屋を出て行った。
「あの人は?」
エマが完全に扉が閉まるのを視認した後、質問した。
「リアムさんのクラス担任でもあり連絡係でもあり生徒会顧問でもあるヒューイ先生よ〜」
「要素もりもりですね」
とエマ呟く。
「そうだな、見るからに面倒くさがりなのによく役職を引き受けたな」
リアムも感心したようにそう言う。
「そうでもないわよ〜。あの人は割と仕事をしっかりこなすから周りからの信頼があるのよ〜」
リアムは素直に驚いた。
あの様子で信頼があることは意外としか表せなかった。
そのあとは特に重要な話もなくみんな作業に戻っていった。
リアムは空気を壊さないためにエマに帰ることを耳打ちしたあと生徒会室を後にした。
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