第14話 報告、情報共有
リアムはニフルのすぐ西の地域であり王城のあるエルドラに向かっていた。
魔導で動くバスのような車両である魔導車を乗り継ぎしばらくするとエルドラ郊外にたどり着いた。
ここはニフルの街並みとガラリと変わる。
城下町であるエルドラは外周を石壁によって囲まれており、入るには関所を超える必要がある。
リアムは仮にも名家、アーキタイトの人間である。
そのため関所は簡単に通り抜けられる。
関所を超えて見える景色は白い石壁に群青色の屋根をかぶる建物がひしめくように建ち並んでいる。
リアムは建物の合間を縫うように整備された道路の上を行く。
歩くこと数分、リアムの目には王城の次にでかいと言われている土地が映っていた。
黒の柵で覆われた広大な土地に立つ大庭園を抱える豪邸それがアーキタイト本邸である。
正門へと歩みを進めると門番と会話しているカグヤが見えた。
リアムのことを視認したカグヤは軽く頭を下げ
「おかえりなさい、リアム様」
と恭しく言葉を発する。
それに続くように門番も「おかえりなさい」と言いながら頭(こうべ)を垂れた。
いかにリアムが“アーキタイトの出来損ない”であったとしてもアーキタイトの人間であることに変わりはない。
そのため礼儀を重んじる必要のある本邸の周囲ではカグヤもいつものように「リアムくん」とは呼べない。
リアムも最初の方はいつものように呼んでくれと頼んでいたが幾ら言っても変わることはなくいつの間にか諦めていた。
「では、リアム様、こちらへ」
カグヤが前を歩き始める。
リアムはその後に続き東館へと入った。
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東館、第2特務室
前線隊員がリアム、カグヤ、サクヤで構成され補助隊員が数名補佐に着く次期当主候補であるエマ・アーキタイトの護衛を主な任務とする第2特務隊に割り振られた多目的室へとリアムとカグヤが足を踏み入れた。
サクヤはリアムと入れ替わる形でエマの護衛に入っていていないが補助隊員の何人かは第2特務室にいた。
「ふう、この部屋に入ればリアム“様”と呼ぶ必要はないわね」
とカグヤが小さくため息をつきながらそう呟く。
この部屋ではリアムもカグヤも同じ第2特務隊の構成員の扱いとなり立場は平等と言えるようになる。
それに入り口周辺ならともかく、個人の使える探知魔導で簡単に突破できるほどここの警備は甘くない。
「さて、リアムくん、わざわざ足を運んでもらって申し訳なかったわ。何かしらの策謀がある上にその相手が特定すらできていない状況なので本邸(こちら)に来てもらうことにしたの」
カグヤが話を始める。
リアムは黙ってその話を聞くことにする。
「リアムくんが捕らえた男は尋問(ききとり)等の後、記憶改編を施して解放したわ。後の話はルーフくんに頼むわ」
とカグヤが一歩下がり後ろでつまらなそうな顔をしている白髪がフードの隙間からわずかにのぞいている男(ルーフ)の肩に手を置く。
ルーフは少し頰を赤く染めながらカグヤの手から逃れるように前に出る。
「チッ、本当にカグヤさんの頼みじゃなきゃ断っていたが…。まぁ、あらかたの話はリアム、貴様の魔導具(ウィッチクラフト)の情報と一緒だ。マインド・プロテクトは無し、精神干渉の痕跡があった。加えて認識阻害のせいで記憶の色も不鮮明だ。正直情報がないとしかいえない」
ルーフはそう言い切ると不愉快そうな顔をフードの中に覗かせる。
「と言うわけでほとんど情報はないの。ただ学園に何かしら仕掛けられている可能性があると考えた方がいいと言うことよ。これでこちらからの話は以上よ」
とカグヤが前に出て話をまとめる。
カグヤの言葉を聞いてルーフ達は自分の仕事へと戻っていった。
「カグヤさん、今週の休養日にエマの補講があるそうだ。一応、いつも通り俺が護衛に出るが…何か用事あるか?」
リアムは思い出したようにそう尋ねた。
カグヤは数秒の間考えるような素振りを見せた。
「私達の方は用事はないけれど、その日って春季の魔導学術学会じゃなかった?」
魔導学術学会とは魔導師(ウィッチャー)が一堂に会し春季の研究経過報告等を行うものである。
オルフェ王国最大の魔導教育機関であるシューラ魔導学園の講師ももちろんその学会に参加する。
自分に発表するものがなくても他者の発表を聞きに行く価値があるほどのものである。
つまりはこの日ほとんどの講師は学会に行くはずだと考えるのが普通である。
「畑違いでも聴きに行くものだと思っていたのだけれど…実力主義の学園のシステムを考えるとそうではないのかも」
カグヤが考える素振りを見せながら呟く。
成績と自分の立場の維持のためと考えれば補講を行うことも納得できないことはない。
「何にせよ警戒は必要ですね」
リアムが短く話をまとめる。
カグヤもそれに同意するように頭を縦に振った。
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