第12話 不穏な種子

リアムはサクヤと入れ替わる形で学園に戻り、エマの護衛を再開した。

エマ、アリス、リズ、レオンは共に行動していたうえに最後にいた場所の周辺にいたので全員を見つけるのにそう時間かからなかった。


「おい、リアム!お前どこ…」

「兄さんっ!」


レオンがリアムに言葉を投げかけ切る前にエマが彼の元へ駆け寄った。


「エマ、心配させたか?」


エマはリアムの制服をぎゅっと掴みながらコクコクと頷く。


「で、急に飛び出して何してたか教えてくれる?」


とアリスが横槍を刺すように話しかける。

エマを含めた全員が興味ありげに視線を向ける。

リアムは少し考える。

もちろん“学園内に怪しい人物がいたから追いかけていた”という本当のことを話すわけにはいかない。

リアムのした行為は明らかに普通の学生の領域を出ている。

この場合、適当に誤魔化すのが一番早そうだと判断したリアムは口を開き


「ちょっとした用事があってな」


と短く言葉を投げた。

アリスはふ〜んと怪しげな眼を向けながら


「まっ、いいわ。それよりも私食堂のクレープが食べたいの、買いに行きたかったんだけどエマちゃんがなかなかここを離れようとしなくてね〜」


エマがその態度にピクリと反応する。

常人には分からないほど微弱だが彼女エマから魔力が漏れ出ている。

魔力量に優れた人間は感情、特に負の方向に向いたものによって普段は整えられている魔力が乱れて体外へ漏れ出たりする。

今、エマは何かしらの感情を割と強く抱いているということだ。

“兄さんになんて無礼な真似を”という彼女の魔力が漏れ出る原因まではリアムには察せないが不機嫌であることは容易に理解できた。

リアムは目の前で微弱な魔力を湧き出させている彼女に迷いなく手を伸ばす。

エマの絹のような髪の間に指先を滑らせる。

髪を乱さない程度に手を動かし頭を撫でてやる。

エマは猫が撫でられた時のような顔で気持ちよさそうに目を閉じている。

その頃には漏れ出る魔力が収まっていた。


「エマ、一緒に買いに行ってくれないか?」


リアムがそう尋ねる。

エマははっと目を開いてリアムに視線を向ける。


「間違えて買ってアリスに怒られると困るからな」


「買い間違えるってどんだけよ」


アリスが少し呆れたように呟く。


クレープを買った後は特にこれといったハプニングは起こらず平和にイベントが終了した。



不穏な種子たねを残す形で…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る