第11話 尋問タイム
男は目を覚ます。
目に入ったのは青々と生い茂った木々と葉と葉の隙間から漏れ出る太陽の光であった。
男が周囲を確認しようと動いた瞬間、身体を左右に両断されるような鋭い痛みが脳へ駆け上がった。
男は思わず顔を歪めてしまう。
「…っ!」
痛みに対する声は出ず、詰まった音だけが外へ放たれた。
男は立ち上がるのを諦め、傷の位置を確認するために手を動かした、否、動かそうとした。
手は木を挟み込むようして背後で固定されている。
そこまできて男は拘束されているという事実に気付いた。
男の額から汗が湧き出る。
恐怖はそれだけでは終わらず、背後から首に向かって何かが当てられた。
男はそれが身体を真っ二つにするかのような痛みの原因であると直感的に察した。
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リアムは後方から
そして、
「いいか?余計な気を起こすんじゃないぞ。【スペル・ジャミング】を付与してある、お前がいかに優れた
と冷酷な口調で言葉を発した。
リアムからでは男の顔はよく見えないが怯えているということだけはわかっていた。
「ま、待て、善良な市民を殺すなんてことをしたら治安維持隊が黙ってないぞ」
何が善良な市民だ、おかしなことをとリアムは心の中で嘲笑しながら
「この世界ではないどこかへ飛ばす魔導を知っているか?」
と試すように言う。
男の汗が首筋にまで現れ始める。
彼は何が起こるかを察したのだ。
「まさか、【ディメンション・ゲート】を使うのかっ!?あれは禁忌指定魔導だぞっ!」
人間に想像可能なことは全て形は変われど魔導で実現可能だと言われている。
それ故に人間が扱うには強大すぎる魔導も
人類が国という集合体を作り出し秩序ある社会を目指した際、それらの魔導の扱いを判断することを迫られた。
個人が保有するには強力すぎ、下手すれば国家、世界そのものを揺るがしかねない魔導に対処するために全世界が協定を結んだ。
そうして協定によって生まれた魔導協会と呼ばれる組織は危険な魔導を一級指定魔導、二級指定魔導そして禁忌指定魔導と三つのカテゴリーを割り当てた。
二級指定魔導は協会からの許可があれば個人単位で習得可能な魔導である。
一級指定魔導は協会からの許可を得た組織が限定的に利用を許可される魔導である。
そして禁忌指定魔導は人類には過ぎたる産物のため利用や習得を禁じられた魔導のことである。
利用や習得が判明すれば
【ディメンション・ゲート】を使うということはすなわち協会を敵に回すということである。
「それがどうした?【ディメンション・ゲート】は痕跡が残りづらい、協会が気付くことはないだろう」
リアムは冷たく言い放つ。
ちなみにリアムは【ディメンション・ゲート】などという大それた魔導を使えないどころかそれより
今までの発言全ていわゆるハッタリで構成されていた。
ただ、素性の割れていないこの状況であれば自信満々にそういうだけでできると考えさせられる。
わずかでも揺さぶりをかけられれば自分のペースに引き込むのは容易い。
「命が惜しければ質問に答えろ。どうして俺を襲った?」
「…どういうことだ?あんたを襲った?何を言っている?」
と男は心底不思議そうに尋ねる。
リアムは男が嘘を吐いたと考えダガーを軽く動かす。
スッと動かされたダガーが首に切り傷を生み出す。
「待て、待ってくれ!嘘はついていないっ!街中で変な奴に声をかけられてからの記憶がないんだ」
リアムはその発言を嘘と断じてダガーを軽く動かす。
ダガーを赤い液体がつたう。
「吐くならもっとマシな嘘をつけ」
「嘘じゃない!信じてくれ」
リアムがさらに深い傷を付けようとダガーを動かそうとしたが違和感を感じ、手を止める。
戦闘中と明らかに様子が変わっている。
それに加えてホロウの
『嵌められたかもな、解析によるとマインド・プロテクトの類の術式がないどころか精神干渉魔導らしき痕跡があるときた』
とホロウがつまらなそうに呟く。
リアムの中に一つ良くない予感が生まれた。
「あんた、記憶が途切れる前に出会った人間の顔を思い出せるか?」
リアムは最後の決め手となりうる質問をした。
「……思い出せない。記憶に靄がかかったような…」
決まりだ。
この男はリアムの追っていた人間ではない。
非常に巧妙な手でホロウの追跡をごまかしたらしい。
「やられたな、これ以上は時間の無駄だ」
リアムは忌々しげに吐き捨てる。
リアムはサクヤに連絡をして男を回収させた後、学園に戻った。
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