第9話 決闘の結末

しばらくして勝敗の意外さからようやく解き放たれたギャラリーがざわめき始める。

この場にいる全員(エマを除く)がまさかリアムが勝つなんて事は頭の片隅でも予想していなかった。

そしてこの場にいたほとんどの人間がジンに視線を向けていたため、リアムがどんな動きをしたかわかっていなかった。


「リアムのやつ何をやったんだ?」


レオンが自分に問いかけるように呟く。

この言葉は演習室にいる人間の大半の考えの代弁であった。

それほどに速く、鋭い一撃で勝負が決まったのだ。


「多分だけど…」


リズが自信なさげに声を出す。

エマ、アリス、レオンの視線が一斉にリズに向く。


「そ、そんなに見ないで…はうぅ///」


視線に気付いたリズは顔を赤らめて俯く。

どうやらリズは人見知りと言うよりは恥ずかしがり屋らしかった。

リズはブツブツの自分を落ち着かせるために独り言を呟く。

そして一度深い深呼吸をした後、


「リ、リアムさんは決闘開始と同時に魔力を爆発させて…その推進力を利用して高速移動をしたのだと思います。接近した後は【アイアン・フィスト】か何かを発動して…」


と少し自信なさげに言葉を連ねる。

リズの推測はほぼほぼ正解だった。


「そうか、あとは殴るだけで決着がつくな」


とレオンがハッと気づいたように声を上げる。


「で、でも、即興で出来るような動きじゃないよ…あれ」


リズが補足するように呟く。

リアムの動きについてで話が盛り上がるのをエマが嬉しそうに見つめていた。

そして、


「さすが、兄さん」


と笑顔で呟いた。


::::::::::


意識を取り戻したジンがフラフラとよろめきながら立ち上がる。

言うまでもなく勝敗は確定している。

そのため、決闘用の現代魔導具ウィッチャークラフトは機能停止している。

ジンはどす黒い悪意に満ちた目をリアムに向ける。


「とんだイカサマ野郎だ!どんな姑息な手を使った!」


と部屋中に響く大きな声で叫ぶ。

多少はずるい手を使っていると言えなくもないが領域内のルール違反を厳しく制限する決闘用の魔導具ウィッチャークラフトがある中でその機能によって咎められていない段階でイカサマがないと言っても過言ではない。

ただ、一組の人間が五組の人間に負けた。

この事実を受け入れることは自分が劣っていると宣言するに他ならず、それを受け入れるわけにはいかなかった。

ジンと共にリアムを決闘に持ち込んだ男二人も


「反則だっ!勝ちたいからって決闘用魔導を迂回できる魔導イカサマを使ったなっ!」


「そうだ!卑怯な魔導を使ったんだ!言えっ!」


と口々に言う。

ギャラリーも一組側の人間が多いのかその勢いが波及していく。

そして一種の狂気的な宗教であると感じるほどの一体感でリアムの不正を問いただそうとする。

リアムはフィールドの真ん中でその言葉の矢面に立たされていた。

悪意の視線や言葉に物理的な攻撃力があればリアムは間違いなく死んでいただろう。


『はぁー、これは嫌な感じに目立ったな』


とホロウがつまらなそうに呟く。

リアムもそれには同感だった。

ある程度目立つのは仕方ないと考えていたがこの状況は予想外だった。

不正を問いただす声とそれを増長するヤジが演習室を支配している。


「さて、どうしたものか…」


リアムは苦悩を帯びたため息を吐いた。

どう考えても当事者一人で対処できるものではなかった。


::::::::::


周囲はリアムを責める声で満ち満ちている。

エマ、アリス、レオン、リズは完全にアウェーな状況に陥っていた。


「なんで、兄さんはイカサマなんかしてないっ!」


エマが悲痛な声で叫ぶ。

その声は友人にしか届かなかった。

どうして


どうして


どうして

どうして

どうして


エマの呼吸が加速する。


「どうしてっ!五組が一組に勝つことがそんなにおかしいの!?」


エマは怒気の混ざった本音を叫ぶ。

そもそも大声を出すタイプではないエマの声は周りの音にかき消される。

リアムを責め立てる声、言葉の加速は止まらない。

エマは過呼吸気味になってしまう。

それに気づいたリズが慌てて背中をさする。

続いてアリス、レオンもエマの状態に気付き落ち着くように声をかける。

それでも過呼吸は治らない。



「いい加減にしろっ!!」


突如、鋭く大きい叫び声が演習室を貫いた。

室内の人間の視線がひとりに集中する。

そこにはかっちりとスーツを着こなした金髪美麗な男が立っていた。


「テイル先生…」


エマを含む一組の生徒と思わしき生徒がエマも含めて全員その男の名前を呟く。


「私のクラスの生徒が演習室の利用をしたと聞いて見に来てみれば、五組に負けた上に試合結果にケチをつけるだと?」


テイルはゆっくりとフィールド内に入りながら威圧的に言葉を発した。

遠くにいるため表情をよく見れないリアムからもテイルの怒りをまとった雰囲気を感じ取ることができる。

ジンはテイルの怒りを鎮めるべく


「決闘用魔導を無視できるようなイカサマなしであいつが俺に勝てるはずがありません」


と確信したように言葉を返す。

しかし、それは逆効果だったらしく


「ふざけるなっ!」


とテイルの一喝が周囲を凍りつかせる。


「負けただけならともかくとしてその敗北を認められないとは何事かっ!加えて一年坊主が我が校の決闘用魔導具を突破できるだと?ふざけるのも大概にしろ、その発言はシューラ魔導学園への侮辱に他ならんぞ!」


とテイルは怒りを露わにしながら言葉を続けた。


「す、すみませんでした」


ジンはテイルの圧に気圧されてしまっていた。

ジンのその言葉を聞いたテイルの顔から怒りが消えた。


「さて、そろそろ授業が始まる、教室へ行きなさい」


その言葉を聞いたエマを除いた一組の生徒は演習室を離れていった。

リアムも演習室を出ようと足を一歩踏み出そうとした瞬間、


「リアム・アーキタイト」


とテイルが呼び止めてくる。

怒りはまだ鎮まっていないらしく言葉にはすこし怒気が含まれていた。

リアムは振り返りテイルを見る。


「虚をつけたからこそ勝てたと言うことを忘れるな。慢心すれば勝てるものも勝てなくなるぞ」


テイルは澄ました顔でそう言った後、足を止めたリアムを追い越して演習室を出て行った。

授業を終えて家に帰った後、エマがジンたちが決闘の件で呼び出しを食らったと言うことを教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る