第7話 昼食と騒動

中央校舎を一周した後、中央校舎の東にある第二校舎・西にある第三校舎を軽い説明を受けつつ見たところで教室に戻って昼飯ということになった。

ちなみに第二、三校舎は実験、研究や実習を行う場所になっている。

教室に戻った生徒は各々の誰とどこで昼食を食べるかでちょっとした盛り上がりを見せていた。

リアムは弁当(エマの手作り)をカバンから取り出し、立ち上がる。

レオンが近付いて来て


「リアム、一緒に飯…っと誰かと食べるのか?」


弁当の入った袋を持っている様子を見て気を使いながら尋ねる。


「いや、妹と食べる約束があるだけだ。食堂でいいなら一緒に食べよう」


とリアムが提案する。

レオンは笑顔で快諾してくれた。


「何々、エマさんと食べられるの?私も行っていい?」


意外にもリアムの提案に食いついたのはアリスだった。

どうやらエマはかなり人気者らしいな、とリアムは思った。

エマは美人で、可愛くて、魔導師ウィッチャーとしてとても優秀で…と語り尽くせないほど長所がある。

なので、リアムにとってエマが目立つのは当たり前のことで悪い気はしなかった。


「別に構わないが、急がないと場所がなくなるな」


それを聞いたアリスは嬉しそうにカバンから弁当を取り出す。

そして三人は揃って食堂へ急ぎ足で向かった。


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通信用の魔石で連絡を取りつつ、エマとリアムたちは合流することに成功した。

食堂には多数の長机と椅子が並べられている区域とファミリーレストランのように5〜6人座れる椅子と机のある空間が板のような仕切りで区切られた二つのタイプの座席があり、今リアム達がいるのは後者だった。

当たり前といえば当たり前だが仕切りのある座席の方が人気であり一組や二組のような上位のクラスが座るのが普通といった風潮があった。

エマは一人、リズと言う名の同じクラスの友達を連れて来ており五人という割と大所帯での食事が始まった。

ちなみに、リズだけ弁当ではなく学食を利用している。


「エマさんと呼んでいいかしら?」


アリスが少し言いずらそうに尋ねる。


「ええ、もちろん。むしろエマと呼び捨てにしてください」


とエマが弁当をつつく手を止めて答える。


「じゃ、じゃあ私もアリスって呼んでくださいっ!」


とアリスは興奮気味に言葉を返した。

その目は憧れの人を見て輝いているようだった。


「あ、あのっ!…私も…リ、リズって…よ、よ、呼んでくだしゃい!」


とエマの隣に座っているエリカには及ばないがかなりの巨乳を持つ少女が話に入ってくる。

人見知りなのだろうか、かなりガチガチに緊張していた。

エマのリアムと食事すると分かっているところについて来たということはそこまで五組を見下すような人間となんとなく予想がついていた。

わざわざ見下しにくるような性悪な人間であれば付き合いを考えるようにやんわりと伝えるつもりだったが、実際はそうでなかったのでよかった。


「うん、私のこともアリスって呼んで。よろしくリズ、エマ」


アリスはとびっきりの笑顔でそう言った。

リズは噛んだショックか名前を呼ばれた嬉しさか判断つきかねるが赤面しつつ頷いた。

リアムは黙って三人(主にエマ)の様子を眺めながら食事をしているため少し暇そうなレオンが


「これ男達おれら、邪魔者じゃね?」


沈黙に耐えかねてそう呟く。

確かに女子がワイワイ話しているのををただただ眺めるような時間が続いているのでそう感じるのも無理はない。


「そんなことはないと思うぞ」


リアムがそう小さく返す。


「そうだ!エマもリズも聞いてこいつ、アーキタイトのこと全く知らなかったのよ」


と話題がレオンへと飛んでいく。


「ちょっ!それは事実だけどさぁ!」


結構気にしているらしくかなり大きい反応を見せた。

リアムはふっ、と小さく笑いながら黙って食事を続けた。


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やがて賑やかな食事も終わり、昼の授業までかなり時間があり、会話で穏やかに時間を潰そうとしていた。



しかし、

「おやぁ?こんなところに五組の人間がいるなぁ?」


わざとらしく大声で誰かがこちらを指差し叫ぶ。

おそらく校章の色を見たのだろう。

運の悪いことにその男達からはエマ、リズ、アリスの存在が見えていない。

わざわざ絡んでくる性悪の目つきの悪い三人組が声の先にいた。


「俺ら立ってるの疲れるんだわ、どけよ」


一番端にいたリアムが座席から制服を掴まれ引きずり出される。

面倒臭いので反抗するのをやめておき、されるがままにしておいたところ


「兄さんから離れて」


と普段のエマからは想像できないほど鋭い声が男達を突き刺した。

エマは座席から飛び出し、男達とリアムの間に立った。

男達の視線がリアムからエマへ移る。


「おっ、エマさんじゃん…こんな冴えない五組の奴らより俺らと話ししようぜ」


男達の目がすこしいやらしい色に変わる。

エマは知らないが一年一組の中でエマは最も男子から人気がある女子になっていた。


「嫌です、話す相手は私が自分自身で選びます」


エマは毅然とした態度ではっきりと言い返す。

男達に少し不機嫌な色が映る。

そして、エマの腕を強引に掴み。


「そんな釣れないこと言わないでさぁ?」


とエマの腕を力強く握りながらそう言う。

こいつらはエマの気を引くことが目的というよりはリアムを含めた五組の人間を挑発しているようだった。

五組に一組を相手する力などないと、たとえ抵抗しても無残に負けるだけだと行動で教えようとしていた。

完全に狙いは五組に恥をかかせ、自分達の力を示すことだ。


「痛いっ!やめて」


強く腕を引きつけられたエマが悲痛に叫ぶ。

リアムの中で何かが外れる。

単純に指先に魔力を集めて放つ準備をしながら男に近付く。

もちろん殺傷能力はないしリアムの実力では気絶すら不可能だろう。

奴らにとってこの展開は狙い通りでしかないなので周りの二人が止める様子もない。

リアムは手を伸ばせば男に触れられる距離まで接近したところで指先を男の額に当てる。

この距離で頭に撃ち込んだなら流石に男を吹き飛ばすことができる。


「今すぐその汚い手を離せ、さもないとあんたの頭を撃ち抜く」


魔力に感覚を集中させなくてもわかる魔力密度を感じているはずだが男はビビる様子はない。

むしろ不敵な笑みを浮かべて


「あれれ?こいつ五組のくせに一組の俺らに喧嘩売って来たな?これは実力を見せてやるしかないよなぁ」


とわざとらしい演技をした。

男はエマから手を離しリアムをニヤニヤとした目つきで見る。


「これは決闘するしかないよなぁ?」


予想通りの言葉にリアムは何の表情変化も示さなかった。

逃げればバカにでき、決闘を受け入れば負けて力の差を見せつけられる。

彼らの狙いはこんなところだろう。


「妹に手を出したことを後悔させてやる」


リアムは怒りに満ちた目でそう言った。

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