第6話 エグゼの門
学園生活2日目
リアムはエマは共に登校し、彼女が彼女自身の教室に入っていくのを確認したのち自分の教室へ向かっていった。
教室と廊下を遮る引き戸を開ける。
音に反応した生徒の視線が一瞬、リアムに集まったかと思うとほぼ全員が“しまった”というのを顔に表しながら視線をずらした。
リアムが自分の席に座ると
「おはよう、リアム」
とアリスが話しかけてくる。
どうやら避けることはやめたらしい。
話し相手ができたという点では
「ほんっと、すみませんでした」
噂をすればなんとやら、リアムに気付いたレオンが頭を下げてそう言った。
「アリスから聞いたよアーキタイトのこと…生意気なこと言ってほんと申し訳ない」
アリスに視線を向けると“えっへん”と誇らしげな様子で笑っている。
どんな説明をすればこんなに態度が変わるのか気になるがそれよりもレオンの態度の方が問題だった。
こんな様子だと調子が狂う上、周りの人間の良くない印象が加速してしまう。
「妹相手ならともかく俺はアーキタイトの出来損ないだ、気にする必要はない。それに昨日みたいな感じの方が俺は嬉しい」
となるべく誤解が生じないように注意しながら声をかける。
その言葉を聞いた途端にレオンの顔が明るくなる。
「そうか、じゃあ昨日みたいに話しかけてもいいか?」
レオンはどうしてか俺に興味を持っているらしい。
「別に構わない」
リアムとて教室でずっと一人で居たいわけがない。
レオンのような人間がクラスにいるのはメリットがある。
例えば授業でグループを作るときに話せる相手とチームを組めればかなり楽だろう。
リアムの言葉を聞いてレオンの顔が緩んだところでチャイムが鳴り響き、担任のヒューイが入ってきた。
ボサボサの髪に丸眼鏡が印象的なヒューイは常にだるそうな顔で今日の流れを説明していた。
本日は学園の主要施設の案内がメインらしい。
「はぁ〜⤵︎、と言うわけで非常に不本意であるがこれから学園施設の案内を始める。遅れて迷子になっても探すのだるいから一人で帰ってこいよ。さぁ、二列に並べ」
とヒューイがボサボサの頭を掻きながらそう言う。
「昨日も思ったけど本当にやる気なさそうね、あの担任」
とスッと隣に並んだアリスがそう言う。
何だかんだアリスもリアムに絡みたいらしい。
列が前に進み始める。
ガヤガヤと話し声がそこらじゅうから湧き出ているがヒューイは特に注意するつもりもないらしい。
「そうだな、教員も実力主義だが、下克上を狙っているというよりかは這い上がるのを諦めている感じか」
私語を咎めるつもりがないらしいのでリアムもアリスと話すことにした。
シューラ学園は徹底的に実力主義がなされている。
もちろん上に入れる実力、成績を示せれば上のクラスに上がれる。
逆もまたしかりである。
教員もまたその枠にとらわれる。
彼らは成績の上がり幅が主な指標となり、毎学期、クラスの再配置がされる。
「聞くところによるとヒューイはもともと一組のエリート教師だったらしいわ。けど、数年前にエリート生活が一転して一気に最底辺まで落ちた。それでも何年かは這い上がろうと、もがいたらしいんだけど…去年あたりからそんな気もなくなったのかだるそうになったらしいわ」
とアリスが詳しい説明をした。
「随分と詳しいな」
「うちの母親がこの学園の事務員なのある程度どんな先生がいるかは聞いているわ」
なら、とリアムは一瞬考えてから口を開く。
「一組の担任は二組からの繰り上がりか?」
エマのクラスの情報はなるべく手に入れておきたかった。
いつ何時、クラスメイトや担任がエマに手を出すかわからない。
情報を入れておいた方が対処が簡単になる。
「…あ〜、妹ちゃんが大切なのね?…正直あんまり情報がないの」
アリスの表情は前半はニヤニヤ、後半は申し訳なさげと忙しそうだった。
「繰り上がりじゃないのか?」
「そうみたいなのしばらくは繰り上がり状態だったんだけど去年から一昨年に急に四組の担任が辞めて、なぜか一組に新しい先生が入ったらしいの」
つまり四組までの担任は繰り下げが起こったと言うことだろう。
「だが、なぜ一組に?」
「そこは分からないわ、でもかなり優秀な先生らしいし、もともとの実力的に一組でもおかしくなかったって母が言っていたわ」
なるほど、その教師が一組から落ちていないと言うことは学校の判断は間違っていなかったらしい。
急に周囲がひんやりとし始める。
ヒューイは会話の間ずっと色々なところを説明していたらしい(ほとんど誰も聞いていないが)。
「ここは重要だ。君たちはこの先の学園生活で一切関わることはないところだが逆に関わると除籍で済めばいい方なぐらいの厳罰を受けることになるから説明するぞ」
と少し真剣な顔でヒューイはそう言う。
いつもとわずかに違う雰囲気に私語が一気に止む。
「ここはエクゼの門、学園の莫大な魔力リソースや貴重な文献・資材の入った簡単に言うと金庫だ」
と禍々しい両開きの巨大な扉を指差してそう言う。
扉には一見、鍵がついていないように見えるが魔力に感覚を集中させると無数の術式が重なり合った蜘蛛の巣のように張り巡らされていると分かる。
「この門は正規の手段で
ミスればやばいことを理解した生徒たちは黙って話を聞いている。
「その扉、以外に簡単に開けられるから異界に落ちないようにな。さて、次に行くぞ」
ヒューイは生徒の様子など興味なさげに歩みを進めた。
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