第3話 生徒会の交渉

リアムとエマはサーニャに案内され中央学舎の最上階にある生徒会室を訪れていた。

扉を開けるとグラウンドを一望できる大きな窓とそこから伸びるように生える長机が印象的だった。

サーニャ以外の生徒会役員らしき人間も数人確認できた。


「ささっ、適当なところに座って〜」


サーニャが座席を指差しながらそう言う。

それにしたがリアムとエマが隣同士座る。

エマと向かい合うようにサーニャが席に着く。


「えーでは、端的に用件を言わせてもらうわ〜。エマさん、生徒会役員になってくれないかしら」


サーニャは早速本題を切り出す。

リアムは予想していたのでさして驚かなかったがエマは驚いていた。


「ええと…ど、どうしょう」


エマはおどおどとしながら言葉を返す。

リアムは彼女の意思を尊重したいためあえて口を閉じて様子を見ていた。


「あぁ、断ってくれても全然構わないわ。この学校の風習よ、それも一組を至上のものとする無くすべき…ね」


サーニャは少し呆れた様子でそう言う。

どうやら彼女サーニャはどちらかというとこの学校に存在する身分制度カーストが気に食わないらしかった。


「…兄さん、どう思う?」


自分で決めることを放棄したエマがリアムの袖を引っ張りながら尋ねる。

助けを求められれば答えねばならない、そういう意識の元、


「そうだな…部活よりは家の用事を断る口実として使いやすいとは思うな。…エマ、部活はどうなんだ?」


と軽い助け舟を流してやる。


「家事があるから遅くまで学校にいれないしやるつもりはないかな」


エマは少しの思考時間ののちそう答える。


「生徒会はそこまで遅くならないから時間的な問題はないわよ〜」


「なら、兄さんも一緒に生徒会に」


エマがとんでもないことを言い始める。

サーニャも想定外だったのかびっくりしながら考えこんでしまう。


「私はいいんだけれど〜。さすがに五組の人間を今の生徒会に入れるとなると…反発が大きいでしょうね」


と難しいという真面目な答えが返ってくる。

それも当然であろう。

生徒を取りまとめる生徒会に最下級生のそれも最底辺、五組の人間が入り指示や取りまとめを行うということが反発を産むということは容易に考えられる。


「でも、兄さんは…“あれ”さえ使えれば…」


エマは続きをいうのをためらうようにリアムに否、リアムのネックレスに視線を送る。


「エマ、どうしょうもないことを頼むな。それに俺には家の仕事が入った時にフレキシブルに対処できないといけない。だから、生徒会に入るのは難しい」


とリアムは冷静に言葉を返す。

半分事実で半分嘘だ。

そもそもリアムの最優先の仕事はエマの護衛である。

余程のことがなければそもそもアーキタイトから任務が来ることはない。

仮に仕事が入ったところで代わりの人員がエマの護衛に入る。

ただ、生徒会の仕事を抜け出したことをもみ消すのはアーキタイトの権力を持ってしても難しい。

だから、リアム無駄な疑いをかけられたり、言い訳に労力を費やすことは避けたいことだった。


「むぅ、わかりました。生徒会に入ることは受け入れさせてもらいます。ただ、一つ条件を受け入れて欲しいのです」


エマは可愛らしく頰を膨らませてリアムに不満そうな表情を向けた後、思いついたように謎の条件を提示する。


「何かしら〜?できる限り受け入れるわ〜」


サーニャは興味深そうな笑みを浮かべて尋ねる。

リアムも条件が気になってエマに視線を向ける。


「兄さんを連れてきてもいいですか?」


エマがとんでもないことを言い始める(本日2回目)。

サーニャは二人を微笑ましげに見つめる。


「いいわよ〜、エマさんがお手伝いを連れてきたっていうのなら私たちに断る意味も理由もないし〜」


「僕は反対です」


後ろで作業をしていた生徒会役員らしき人が急に話に割り込んでくる。

かっちりと制服を着こなした茶髪マッシュヘアの男がリアムを睨みつける。

今日はとことん面倒くさい出来事の起こる日らしい。


「あら?どうしたの〜、ユリウスくん」


「五組の人間が入ると効率が低下する恐れがあります」


ユリウスが堂々と発言する。

こいつは一組を至上のものとするタイプだろう。


ピシッ


と、奇妙な音が生徒会室に響く。

今まで春の陽気を帯びて暖かかった部屋が雪降る夜のように冷えわたる。

真っ白な霜がサーニャを中心として円形に手を伸ばしていく。


「ユリウスくん、も・う・い・ち・ど言ってみなさい?」


サーニャが冷酷な笑みをユリウスに向ける。

その表情は怒りをそのまま向けられるよりも静かで恐ろしかった。

ユリウスの顔は心配になる程、真っ青に染まっていた。


「す、すみません…でした」


ユリウスは怯えながら声を絞り出した。

その言葉を聞いた瞬間サーニャに張り付いた冷たい笑みが解け元の穏やかな笑みが現れる。


「はい、よろしい。ごめんね〜リアムさん…この子はすぐに…」


「まあまあ、サーニャちゃん落ち着いて。ユリウスくんはこういう子だから」


元から生徒会室にいたもう一人がサーニャとユリウスの間に立つようにしながら仲裁の言葉を発した。


「エリカ、そんな甘やかすからいつまで経ってもユリウスくんは成長しないの」


ザクッとユリウスの心に見えない刃が突き刺さったのが側から見ていてもわかった。


「せっかくだからまとめて紹介しておきましょう。こっちの生意気くんがユリウス・ローベルト、もう一人がエリカ・アルフォンス、二人とも副会長よ」


「生意気くんは余計ですっ!」

「よろしくね、エマさん、リアムさん」


二人がそれぞれの反応を示す。

そこでリアムは気付いた、エリカの胸部の膨らみがとんでもないということに。

第1ボタンを開けるだけでは窮屈だったのか第二ボタンまで開いていて破壊的な胸が激しい主張を周囲に振りまいている。

簡単にサイズ感を伝えるならメロン×2が胸に付いていると言うのが一番いいだろう。

彼女が少し動くだけで胸がたゆんたゆんと揺れる。

リアムは一瞬、エリカの胸に視線を全て持っていかれたがエマの嫉妬を帯びた鋭い視線を受けて目を離す。

視線が物理的干渉力を持っていれば刺し殺されていただろう。

挨拶が終わったのを確認した後、サーニャはポンっと手を叩き


「とりあえず、エマさんの条件は受け入れます。他の生徒会役員も紹介したいからお時間よろしいかしら?」


と言う。

ユリウスは不満気な表情を浮かべていたがサーニャが笑顔で制した。

エマは頷きでもって肯定した後、


「兄さんはどうするの?」


と尋ねる。

リアムは数秒思考したのち


「やめておく、少し用事がある」


と返事した。

エマはその返事をなんとなく予想していたのか特に記すほどの反応を示さなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る