第2話 新たな友との出会い
入学式は滞りなく行われていった。
一番期待の無い五組は入学生のはずだが一から四年まで全員後ろに集められていた。
ここからも分かる通り五組=最弱の扱いは最悪である。
そんなところに希望など抱いていなかったリアムは特に集中もせずに入学生を眺めていた。
彼の目的はただ一つ、妹の晴れ舞台を自分の目で見ることだけだ。
後ろの方見ないといけないのは不服だが妹の入学生代表の言葉を見れるだけで十分だった。
そしていよいやその時が訪れた。
「続いて新入生代表挨拶、新入生代表エマ・アーキタイト」
“はい”という可憐な声の後、優雅な足取りでステージへと歩く。
リアムは背伸びをして妹の様子を見守る。
エマは丁寧にお辞儀をして学園長の前へ進む。
「暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日、私たちはシューラ魔導学園に入学しました。 どんな生活が待っているのだろうと不安と期待が入り混じった複雑な気持ちです。
このシューラ魔導学園の生徒である自覚を持った行動ができるように努力していきたいです。
先生方、それから来賓の方々これから私たちことを温かくそして時に厳しくご指導していただきますようお願いします」
そうゆっくり落ち着いてはっきりした口調でエマは新入生の挨拶を終え、お辞儀、凛々しい足取りで自分の立ち位置に戻る。
そこまで目と記憶に収めたリアムは完全に入学式を見て記憶する気を失った。
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入学式も終わり新入生は全員クラスルームに入っていた。
今日は授業はないがホームルームがあるため待たされている形だ。
真っ先に教室にたどり着いたリアムは自分の席を確認し座る。
ポジションはいちばん後ろの窓際いわゆる主人公席だ。
「座席後ろだ、やったね」
そう言いながら活発そうな赤髪の少女がリアムの隣に座る。
「おっ、君、席隣?」
リアムの話しかけてくれるなオーラをたやすく貫通し少女はリアムに声をかける。
一瞬、逆側の人間に話しかけている可能性を感じたがそちら側には人がいない為その可能性は否定された。
「そうだが…なにか?」
「隣同士仲良くしようってこと。よろしく、私はアリス・フィール、気軽にアリスって呼んで」
ここまで来て反応しないのはむしろよくない。
そう判断したリアムは
「リアムだ。よろしく、アリス」
と“アーキタイト”の名を隠して言葉を返す。
五組にいるアーキタイトと言うだけでほぼ“アーキタイトの出来損ない”に確定してしまう。
言われるのは慣れているが出来れば避けたいのは事実だ。
「よろしく、リアム」
その後入学式の話題を中心としてたわいもない話をしているうちに先生が現れた。
なんとか自分の素性を割ることなく会話しきった。
しかし、リアムにとって誤算だったのは先生が全員にフルネームで自己紹介することを強要したこととその結果、クラスのほぼ全員(国外生徒なのか一部の生徒はピンときていない様子だった)がリアムが“アーキタイトの出来損ない”であると理解したことだ。
仕方ないとはいえ最悪のスタートを決めたこの日をリアムは心底恨んだ。
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自己紹介等諸々が終わって放課後
リアムは自分に向けられる憐れみ、嘲笑等を含んだ視線を意識の外側に無理やり押しやる。
リアムが教室を出ようとすると
「よう、ええと…リアムだっけ?」
と茶髪ジャギーカットの筋肉質な男が話しかけてくる。
リアムは自己紹介を思い返す。
男の名前は確かレオン・マクラーレン。
リアムは自分の素性を知った上で直接バカにしにくる一番嫌なタイプかと思い溜息をつく。
周囲の生徒は“あいつやりやがった!”というような視線を二人に当てながら避けるように教室を後にしていく。
「その通りだが何か用か?」
リアムは極力感情を出さないように落ち着いて尋ね返す。
次の言葉は大体予想がついていた。
“アーキタイトの出来損ない”だ。
「一緒に帰らねーか?」
レオンの言葉は予想外にも程があった。
大抵の人間はリアムが“アーキタイトの出来損ない”と分かると関わるのを避けようとする。
出来損ないのくせに権力を持つ家の子だ。
リアムにそのつもりはないとはいえ関わり方を間違えるとその権力に叩き潰される可能性をどうしても考えてしまうのだ。
関わりを避ける証拠としてアリスもリアムがアーキタイトの人間であると分かった途端にこちらに話しかけることをやめた。
「何故、俺なんだ?他にも沢山生徒はいるだろう」
リアムは探りを入れる言葉をかける。
素か演技か定かではないがレオンは首を傾げ
「どうしてそんなことを聞くんだ?…まぁ、主属性が無属性っていうのが面白いと感じたからかなぁ」
と心底不思議そうに尋ねる。
無属性が面白い、リアムは心の中でレオンの言葉を反芻する。
主属性か無属性ということはリアムにとって忌まわしいもの以外の何者でもなかった。
「あんたバカね、アーキタイトの人間にこうもズカズカ行くなんて」
ずっと話を聞いていたらしいアリスが笑いながら話しに入ってくる。
その言葉がリアムの思考を阻害した。
「正直言ってアーキタイトのナントカというのがよくわからん…」
レオンは恥ずかしそうに頭をぽりぽりとかく。
どうやら自分に話しかけたのは本当に興味があったかららしかった。
「あんた、アーキタイトすら知らないとか言うんじゃないでしょうねぇ」
アリスはジト目をレオンに向ける。
「お恥ずかしいことに全く知りません…」
「国外生徒だっけ?それでも知らないって相当な気が…。いい、アーキタイトって言うのは国内では知らない人がいないぐらいの名家よ。あんたの国にも一つぐらいあったでしょそんな家が」
少しの沈黙。
・
・
・
「すまん、分からん。…名家があるっていうのは知っているが…細かいところまでは」
とレオンは絞り出した答えを二人に向ける。
リアムは“これはガチだな”という驚きと諦めの混じった視線をアリスと交換する。
「あんたが本気で言っているのはわかったわ…」
アリスの諦めるような声。
「兄さん、いますか?」
とリアムたちを除いて生徒のいなくなった部屋に新しい声が入り込む。
リアムはその声の主が見るまでもなくわかった。
なんなら兄さんの“に”のタイミングで分かっていた。
リアムはレオン、アリスから視線を声がした方向へ移動させる。
そこには制服を着た天使がいた。
黒いブレザーから伸びる餅のように白き腕。
肌はきめ細やかでまるで上質なシルクのようである。
特徴的な翠玉の瞳。
枝毛ひとつないミルクティーアッシュの髪がハーフアップに整えられている。
ただ整えられた髪から抜け出るようにピョコっと耳のようなくせ毛が顔を出している。
そこがまた可愛い。
つまり完全無欠の
「悪い、待たせてしまったか」
「いえ、待ちきれずに来たのではないのです」
エマはそこで一息ついて理由を言おうと口を開く
「私が隣にいるってことが理由でどう〜?」
エマが言葉を連ねるよりも早くサーニャが姿を見せる。
「なるほど、生徒会関連ですか」
リアムは理由を察してそう言う。
エマは可愛いらしく頷く。
「お兄さんに来てほしんだって〜」
サーニャがゆるーく言葉を発する。
レオンが何かを察したような表情を浮かべる。
「俺らはお邪魔っぽいな…帰るか、アリス」
「なんであんたと…。そんなことより馴れ馴れしく名前を呼ぶな!」
アリスはすらりと伸びた綺麗な脚をレオンの脛めがけて振るう。
「痛っ!何すんだよ…ってことだまた明日なリアム」
レオンが一応エマとサーニャに会釈しながら教室の外へ出る。
「ったく…あいつにアーキタイトとは何者かを教えてくる」
アリスも呆れ顔でレオンの後を追っていく。
「兄さん、あの人たちは?」
「友人さ」
リアムはエマの問いに短く答えた。
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