最弱魔導師と最強魔道具

学園騒乱編

第1話 入学式前の空き時間

オルフェ王国。

夏は乾燥し、冬は湿潤な四季を持つこの国には世界最大級の魔導学園、シューラ魔導学園があるニフルと呼ばれる都市が存在する。

国内最大の魔導都市であるニフルの街並みの印象を一言で述べるなら“ベルン旧市街”である。

魔導の発展により機械、電子等の概念が成長しなかったこの世界においてこのニフルは魔導、すなわち魔導の流行の最先端が集まる都市である。

ちなみにこの世界では“魔法”と“魔導”の区別が明確になされている。

“魔導”は“魔法”の元に成り立つものである。

“魔法”は体内に宿る魔力をコントロールし物理、化学の理論を無視し神秘を顕現するものである。

一方、“魔導”は魔導具ウィッチクラフトと呼ばれる道具や触媒を介して魔法を再演するものである。


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休日の朝はいい、時間を気にせず惰眠をむさぼる事ができる。

そんな風に考えながら、リアム・アーキタイトは薄っすらと目覚めた意識を保ちながら夢現の世界を楽しむ。

もう少し寝るか、このままぼんやりしておくか、二つの選択肢がリアムの頭に浮かぶ。


「兄さん、起きて」


その選択肢をかき消す声を耳が捉える。

声の主を見やる為にリアムはまぶたを開く。

目に映ったのはリアムの黒髪と全く異なるミルクティーアッシュのロングヘアー、翠玉色の目が特徴的な超絶美少女の顔だった。

その綺麗な髪の両サイドからピョコっと耳のようなくせ毛生えている。

その美少女は水玉のパジャマを着ていた。


「おはよう、エマ…休みなのに朝…早いんだな」


リアムは妹エマに向けてそう言う。

エマはやっぱりと呟いだ後、小さくため息をつく。


「休みは昨日まで、今日は入学式の日だよ?」


リアムは頭の中で日付をカウントする。

リアムの顔から文字通りすうっと血の気が引いていく。

間違いなくエマの言っている事が正しかった。

その瞬間、まだ寝ぼけていた頭が冴えた。


「やばいっ!エマ、時間はっ!?」


リアムは飛び起き勢いよくそう尋ねた。

初日に遅刻なんてやらかそうものなら遅刻する奴というイメージがついてしまう。

それだけは避けなければならない。


「はぁ〜、そういうと思って時間に余裕を持って起こしたよ…ご飯できてるから早く着替えて降りてきて」


エマは呆れたようにそう告げた後、リアムの部屋を後にする。

リアムはさっさとホワイトシャツに黒コート、スラックスというか組み合わせの制服に着替えてエマの後を追う。



食事を済ませて一休みした後、リアムとエマは学校へ出発する為カバンを持った。

エマも着替えを済ませておりブレザーにホワイトシャツ、膝上数センチのプリーツスカートを身にまとっている。

一通り荷物の確認を終えたリアムは扉を開こうと軽く力をかける。


「兄さん、あれは…」

『おいっ!まさかオレ様を忘れてないよなぁ?』


エマの言葉に被せるように男の声が家の中に響く。

その言葉を受けてリアムは忘れ物の存在に気付く。


「ホロウ、悪いな完全に忘れていた」


リアムは部屋の中へ戻り、銀色のネックレスを掴む。


『ったく、オレ様を忘れるとはいい度胸じゃねぇーか』


ネックレスが声を発しながらリアムの手から抜けない程度にぴょんぴょんと跳ねまわる。

ホロウとは何故か人格を持った魔導具ウィッチクラフトである。

魔導具ネックレスを付けたリアムは今度こそ出発の為に扉を開いた。


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シューラ魔導学園、先にも示した通りこの魔導学園はオルフェ王国最大、全世界でも有数の四年制の魔導学校である。

名高い魔導師ウィッチャーを多数輩出しており、国内、国外を問わず人気がある。

この学園は完全な実力主義で生徒の成績に応じてクラス分けがなされる。

優秀な者には優秀な先生が付き、劣った生徒にはそれなりの先生しか付かない。

滅多に起こらないが劣っていると判断された生徒が努力で優秀な生徒を越える事ができれば生徒の入れ替えは起こる。

まぁ、それすらリアムにとって起こりえない夢のまた夢の話である。

そんなことをぼんやりと考えている内に目的地に着いた。


「着いたな」


リアムは懐から取り出した時計を見て言う。

ただ、入学式が始まるまでに40分程度の余裕があり、新入生らしき人物もポツポツとしかいなかった。

この時間は狙ったものだった。

エマが入学生代表である為、動きのリハーサルがあるのだ。

リアムはリハーサルに参加することも見学することも出来ないが超絶可愛い妹に何かあってはいけない為ここまで一緒に来た。


「じゃあ、兄さん、リハーサル行ってくるね」


エマは可愛らしく手を振りながらリアムの元を離れる。

さて、暇になったわけだが…。

リアムは自分の制服の肩に付いた小さなピンバッチを見る。

バッチにはシューラ魔導学園の校章がクラスに応じた色で形どられていた。

一組、二組は最優、優秀な生徒が集まり紋章は白色。

三組、四組は秀、可の生徒が集まり紋章は青色。

五組は凡の生徒が集められ紋章は灰色である。

リアムのピンバッチは黒色つまり最底辺である。

リアムはその中でも下の下、親の口添えがなければ入学すらできていないレベルである。

実力の問題に関してはどうしょうもないと諦めている。

それもそのはず魔導には属性が存在する。


炎を司る焔属性、風を司る風属性、水を司る水属性、雷を司る雷属性、土を司る土属性、回復を司る命属性、破壊を司る破属性、光を司る天属性、闇を司る霊属性。

魔導師ウィッチャーは何かしら得意な主属性を持つ。

しかし、リアムは上記のどれも主属性として持っていない、いや、持てなかった。

リアムの主属性は本来主属性になり得ない全ての魔術の核となり、どの属性にも属さない魔素である無属性を主属性として持ってしまった。

主属性が無属性など想定するはずもない魔導学園の実技試験で良い成績を残せるわけもなかった。

ただ、リアムの家はかなりの権力を持っている為、入学をすることができた。


そんなどうしょうもないことを考えながら一人でベンチに座ってると


「あら〜、新入生かしら?おはよう」


とのほほんとしたという言葉が一番よく似合う黒髪カールの女性が話しかけてくる。


「ええ、そうですが…貴女は?」


「あぁ、そうね〜急に話しかけてごめんなさい。私はサーニャ・レイフォード、四年生で一応生徒会長を務めているわ〜」


とゆるく言葉を返し微笑む。

こんな責任とか感じなさそうな人に生徒会長が務まるのだろうか。


「リアム・アーキタイトです」


そんなことを考えているとは悟らせない表情で言葉を発する。


「アーキタイト…ってあの?」


「おそらく想像通りのアーキタイトかと」


アーキタイトという名はこの世界においてはかなり有名なものだった。

魔導に必要な才能は遺伝によるところが強い。

アーキタイトは風属性魔導の名家でオルフェ王国内であれば知らない人はいないほど有名な家である。


「て事は…エマさんのお兄さんで…あっ」


サーニャはそこまで言って気まずいそうに口を閉じる。

リアムには彼女の言いたいことはわかっていた。


「そうですね、“アーキタイトの出来損ない”です」


リアムは自嘲する表情を浮かべる。


「ごめんなさい…」


サーニャは本当に申し訳なさそうに謝罪する。

当の本人は今までずっとそう言われ続けてきた為慣れて切っていて特に何も感じなかった。


「いいですよ、慣れてますから」


リアムは諦め混じりの声で言葉を返す。


「そう言ってもらえると助かるわ。…それにしてもあなた不思議な色をしているわね…。さっきエマさんと会ったけど全然違う色だったわ」


サーニャは不思議そうにリアムがギリギリ聞き取れる声で呟く。

リアムがその呟きについて言及しようとするが


「さて、そろそろ入学式の受付が始まるわ。私は行かなきゃ〜。リアムさんもここでボーッとして遅れないようにね〜」


と口を開くより先にサーニャが言葉を発してリアムの元を離れていく。


「色が違う…か」


そこに自分の才能が無い理由がある気がしてリアムは無意識にそんな言葉を呟いていた。

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