第4話 森の中の密会

リアムはエマの護衛の引き継ぎの依頼を使い魔に伝えさせた後、学園の外に出ていた。

規則正しく立ち並ぶオレンジ屋根に白壁の家々を見ながらキュリオの森を目指して歩いていた。

キュリオの森はオルフェ王国でも有数の魔法森林であり様々な魔力を含んだ資源があり、この街の多くの現代魔導具ウィッチャークラフトはこの森の資源を利用している。

ただ、今回は資源が目的でない。

なんなら無断で資源を取ったことがバレれば御用になりかねない。

リアムは無言で森の中を数分歩き続けた。

キュリオの森は魔力を多く湛えているが故に魔導を使った後に残る魔力残滓や魔術式作成時に発生する魔導兆候が認識しづらくなる。

簡単に言うと魔導を使っていることが探知されずらくできるのだ。


「ここら辺でいいか」


リアムは適当なところで足を止め、そう呟く。


「ホロウ、頼んだ」


リアムがペンダントに話しかける。


『おうよ、任せときな』


ペンダント(ホロウ)の返事の後、金属が振動した時のような音が小さく響いた。


「さて、カグヤさんいるんでしょう?出てきてください」


リアムは虚空へ向けて言の葉を投げる。

あれ?いなかった?場所、間違えた?

とリアムは何も反応がないのに少し不安を覚える。

周囲から無数のカラスが集まってくる。


「リアムくんのそのなんでもお見通しみたいなその言い方嫌だわ」


と言いながらカラスは姿を変えてマントパーカーを着た黒髪の女性が現れる。

冷ややかな表情にすらりと細く伸びた身体が特徴的である。


「周囲に人は?」


カグヤは短く尋ねる。

キュリオの森の放つ魔力の所為で感知魔導は正確なレーダーの仕事をすることができない。

だがホロウの感知手段は魔力によらず物理によるものなのでキュリオの森の魔力の影響を受けない。


『周囲に他の人間の反応なしだ』


ホロウの声を聞くことができる人間は所有者と所有者が認めた人間に限定できる。

カグヤは許可を受けているのでホロウの言葉を聞くことができた。


「オーケー、それじゃ秘密のお話といきましょうか」


と普段は冷たい彼女の表情が一瞬だけ不敵な笑みに変わる。


「シューラ魔術学園のディフェンスは硬いわ。許可領域以外には使い魔を送るので限界だったわ」


使い魔を送ることができる段階で欠陥がある気がするが触れるとややこしそうなのでやめておこう。


「ここに学園全体の魔力残滓を記録しておいたわ」


カグヤは半透明のグレーの石をポイっと投げる。

リアムはそれを掴む。

魔力を流し込むとホログラムの学園浮かび上がる。

学園にはサーモグラフィーのように青から白で色付けがなされている。

これが魔力残滓の濃さを表しているらしい。


「双子石を使っているから私が得た情報は順次そちらにも反映されるわ。何かあった時に役立ててちょうだい」


双子石とはもともと一つの石を特殊な加工法で魔導特性を維持したまま二つに分けた石である。

双子石の持つ一番の特徴は片側の魔導的変化がもう一方に伝わると言うことだ。


リアムは現れたホログラムの学園の色を一通り確認する。

かなり濃い場所もあれば全く反応のない場所もある。

リアムはそれに奇妙な印象を受けた。


「教員に関してもある程度洗ったけれど怪しい痕跡はないわ。周到に抹消したか元から何もないか、そこは分からないわね」


「後者であって欲しいが…もしもがあり得るからな」


「学園の取引もクリーンそのものだったわ。他の細かいデータもさっき渡した双子石に入れておいたから後で確認しておいて」


「ありがとうございました、カグヤさん」


リアムはカグヤに向けて軽くお辞儀をする。


「さて、仕事の話はここまで。じゃ、また」


そう言うとカグヤは姿を消した。

カグヤのそれはホロウの探知能力なら追跡トレースできるが並の感知魔導程度では間違いなく感知できないかなり優れた秘匿魔導であった。

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