反省文

@araki

第1話

 うるさい。静粛に。お願いだから静かにして。

 何度も頼み込んだのに、声はちっとも鳴りやまなかった。

 私はただ平穏を求めていたのに。それ以外は何もいらなかった。むしろ邪魔になる、そう理解していたから。しがらみの一切を捨てて自由になりたい、それだけをひたすら願っていた。

 けれど、私の望みに反して、声はどんどん大きくなっていった。

 昔のこと、今のこと、そして、これからのこと。目を向けよ、議論せよ、検討せよと、融通の利かない声は私に思考を強要した。私は大した頭を持っていない、だから考えるだけ無駄。そう言い聞かせても、声は頻りに私を急き立てるだけだった。

 きっと焦りを感じていたのだと思う。このままでいいのか、もっと今日のうちにできることがあるのではないか。そんな迷いがどうしても消せなくて、私に相談を持ちかけてきたのだと。

 だとしても、それなら時間を選んでほしかった。それに声を荒げる必要もなかった。日のあたる時間に、穏やかな形で提案してくれたなら、私も少しは耳を傾けたというのに。

 ……そう。結局、私は全ての声を無視したのだ。体を縮めて耳を塞ぎ、嵐が過ぎ去るのを待っていた。すると、声はいつの間にか止んでいた。

 結果、悩みは何も解決せず、私は唯唯煩わされて終わった。骨折り損のくたびれ儲けとはこの事だ。朝日に照らされる私は思わず苦笑した。


「……で? これが寝坊した言い訳か?」

「ええ、全ては私の分からず屋な脳細胞がやんちゃしたせいなんです」

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