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@araki

第1話

 目の前に輝くであろ金銀財宝。夢にまで見た光景が目と鼻の先にあるのに、俺は指一本触れられない。

 ガラス一枚の壁が俺の行く手を阻んでいる。破るのは簡単だ。拳を叩きつければいい。手に多少の傷を負うだろうが、眼前の輝きの前では些末事だろう。ただ、それ以上に失うものがある。

「何してるの、お父さん?」

 視線を移せば幸が無垢な目で俺を見つめていた。「お人形さん、買ってくれるんじゃないの?」

 ああ、確かに俺はそう言って連れてきた。だから、その期待の眼差しは当然だ。

 本当は人形を買ってやるどころか今日の昼飯も買う金はないのに。

 ――もう、これしかない。

「……ああ、そうだな」

 俺は覚悟を決め、懐から拳銃を取り出した。

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