第38話 遺書


 『これを読んでいるということは、わたくしはもうこの世にいない』


 執事クロミズ アキラが書き残した手記の冒頭はこう始まる。



 『

  ただ、このセリフ、よくある遺書で書かれるものとは少し違うのです。なぜなら、わたくしには、、明確にわかっているから、この時死んでいると、なので、「恐らく」は付ける必要がないのです。


  わたくしは未来が見える。


  これを読む皆さんにはわかってもらえるでしょう? その意味。


  う~ん、、落ちるとわかっている旅客機の中で遺書を書くような気分で、これを残しています。つたない文章であることをお許しを。



  まず、あまり自己紹介する時間もなかったので、ここで少々、わたくしのことを。


  職業は執事、グランデバトラー協会に所属しております。はばからず言わせてもらいますと、その協会は世界のトップクラスの富裕層にしかアクセスできない、最上級の派遣組織でありまして、その中でもわたくし、特Aクラスの扱いをして頂いておりました。


  そこへ十日ほど前に、、シラヌイ様から依頼が来たわけでございます。


  多少、不思議な案件ではありましたが、破格の給金を頂けるのでは文句の言いようもありません。。お金持ちというのは本当に様々、一般的な感覚では推し量れない方も多いことですし、その時は深く追求せずに島へ下準備にとやって来たのです。


  島へ来てからも、主人からは声での指示のみで、お姿はなかなか見ることは叶いませんでした。おそらくメイドのウルフィラさんも同じようなものかと察します。


  ただ、繰り返しになりますが、これも殿上人のなさること。気にしてはいけません。


  二人きりという従業員の少なさから忙しさこそあれ、さばき切れないお客様の人数でもなく、自信をもって仕事をこなし初日を迎えた訳でございます。


  あ、そうそう、最初は皆さまのことを超一流アーティストだと、最高のタレントの皆様を集めてのパーティを開かれる、というような趣旨でお伺いしていました。

  僭越ながら、間抜けでは務まらぬ仕事をしていますので、すぐに分かりました。少し奇妙だなと。

  そこで、改めてご主人にそれとなくお聞きしましたところ、なるほどと納得できるお返事と皆様の情報を頂きましたので、直接お迎えする時には、、しっかり心の準備は整っておりました。


  さあ、そこ、、で一体いつ黄色信号が、わたくしの頭の中に灯ったのか?


  晩餐で皆さんが勢ぞろいした時でしょうか、その少し前でしょうか、その辺りから能力のギアを上げ始めました。しかし私もプロです、この程度で動揺を表に出すわけにはまいりません。少しでも成功していれば幸いです。


  何事も起きず日が暮れ、後片付けを済ませて用意された自室に帰り、シラヌイ様からの明日の指示もなく、疑問が増し、少々寝付けずベッド、、で思いを巡らしていた時です。



  これは、詰んでしまったなと。


  この結論に至るまでのわたくしの気持ちは、一度捕まえられると逃げられない、まさに不安が不安を呼ぶあの恐ろしい感覚。

  皆さんにもありませんか? 恋人、大切な人が待ち合わせに遅れてやってこない、連絡もつかない、頭の中でマイナスな想像がどんどん膨らみ不安で胸いっぱいになる感覚。



  わたくしには未来が見える。そう、その能力についても書いておきましょう。


  予知能力。自分にかかわることを最大数時間先まで知ることができます。ただ、常に緊張している人がいないように、この力も常に発揮しているわけではありません。やはり人間、生きている以上未来の事ばかり見ていられないということでしょうか。


  わたくしの命にかかわるような重要な出来事は特にはっきりと。悪寒と言いましょうか、そのようないや~な感覚を覚え、そう意識せずとも分かるので不思議なものです。



  そうは言いましても、、どうして未来を予測できる人間が殺されるのだ、と納得できないでしょう? もう少し能力の限界についても教えてしまいましょうか。

  教えるとは、少々上から目線ではありますが、わたくしも、長年経験してきましたから、この力については。



  未来予知は万能ではありません、行動によって変化します。これがなかなか厄介です。わかりやすく言いますと、賭けのオッズをご存知でしょう。


  例えば競馬、倍率最高の大穴に賭けたとします。少額でオッズが変化しないのならいいのですが、まあ儲けようと思えば下がってしまうことが多くて、これが変化の兆しです。上手くいくこともあるでしょうが、それに影響を受けると未来が変わります。


  変化に気づいた誰かが、同調して賭けてくるかもしれません。そして倍率の変化を見た競技者の気持ちも、誰も期待していなかった以前と同じだとは言えません。そういうことです。



  だけれども、命にかかわるような場合、手をこまねいている場合ではありませんね。未来の変化さえも予知しなければなりません。再予知に入るのです。


  変化を確認した後、最初に予知してから時間がたった後、もう一度未来を見ます。



  能力を持ってはじめて気づく悩み、透明人間の憂鬱とでも言いましょうか。きっとお客様の中にも同じ気持ちを持った方がいらっしゃるかも。



  何度も予知を繰り返して、死を避ければいいと言われるかと思います。

  

  またたとえ話で恐縮ですが、本をイメージしてください。少し先の展開を読むならば数分もかからないかもしれませんが、最後の結末まで読むとなると、時間が必要かと思います。

  そうなのです、未来を読むにもそれなりの物理的時間が必要なのです、わたくしには未来を速読する力は無かった、早さを比べようがないので断言はできませんが。



  そういう訳で、何回未来を読んでも書かれてあるのはバッドエンド。わたくしはもう残った時間を悲しい物語を読んで無駄に使うのはやめました。


  メッセージを残し、皆さんに少しでもお役に、記憶に残してもらった方が残された時間の良い使い方となるでしょう。急いで書いていますので、所々繰り返しが見苦しく申し訳ありません。まあ無駄かもしれませんけどね。



  最後に誰に殺されたか書いておきましょうか、駄目でしょうか。


  おっと、誰に殺されるかが正しいでしょうか。


  難しい問題です、もちろんこの事態になってもわたくしは自殺は決してしません。最後の意地ですね、予知で分かったことを書くと、この手記もきっと消されてしまうでしょうが、仕方ないでしょう。


 』



 後半部分はほとんど殴り書きのような文字になっていて、最後に。


 『では、犯人は』



 (は、犯人は!?)



 ……その先のページは破り捨てられていた。

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