第2話 声で友達
僕は左手にスマホを持って両耳にイヤホンして不特定多数の人と通話が出来るアプリを開いて知らない人と話している。
「もしもし、こんにちは。僕はさーくんと言います。」
「こんにちはー。私はアリスって言うよ。君は何年生?」
「僕は高校1年です。」
「え、私も高校1年生!」彼女は嬉しそうに答えた。
それから、雑談を30分した。
「まだまだ話したいけど家のお手伝いしなくちゃ。声ともにならない?」
通話でしかお友達になれないから”声とも”という。
「いいよ。また話そうね。」僕は答える。
通話が終わった。顔が見えない、相手はどんな人か分からないが通話したらなぜか親近感がわく。本当の友達ではないのに。と自分では分かっている。けれど、また、他の人と話してみたいと思った。
2人目に掛けてみようとプロフィール見て話が合いそうな人を探してみる。
"少し病んでます。"僕は気になった。
「何かあったのかな?」と思って掛けてみた。
「もしもし、さーくんです。何年生ですか?」
「私、ゆずって言って高一です。」少し声が暗い。
「同じ高一だよ。何かあったの?」どうして病んでるのか聞いてみた。
「私、原因不明の病気にかかってるの。」
僕は戸惑った。どんな病態か聞いてみた。
「手に力が入らないの。それに倒れたりする。」
「それって腱鞘炎とか単に血液が回らなくて倒れるんじゃないの?」
「違うの、もう分からない…」
僕は助けてやりたいと思った。
それからたくさん話を聞いた。1時間は話しただろうか。
方言を聞いていると違和感がない。親近感が湧いたのだ。「どこに住んでるの?」聞き辛い所を聞いた。
「小倉。」
「え?近いやん。俺は博多の方よ。」
「そうなんだね。今日は色々話を聞いてくれてありがとう。」
なぜかその時にこの人ともっと話したい。と思ったのだ。僕は
「ねぇ、LINE交換しない?」と聞いた。交換なんてしてくれないだろう、初対面の人に教えるなんてそんな危ないことを僕はしないからだ。
答えは「いいよ。」だった。
僕はLINEのQRコードを”声とも”の個人チャットに送って、交換した。
3人目に掛けてみようとプロフィールを見て、良さそうな人を探した。
「吹奏楽部に入ってます!」と書かれていた。
僕は吹奏楽でパーカッションをしている。話が合うかも。と思って掛けてみることにした。
「もしもし、さーくんと言います。よろしくお願いします。」
「こんにちは!ハルです!中一です!」
このアプリで初めて年下の人と話すことになる。年下と話すのは少し苦手だ。しかし、練習と思えば。と思って話すことにした。
「何の楽器をしてるの?僕はパーカッションしてるんだよ。」
「え?!パーカッション?!私はユーフォニアム吹いてる!あの、聞いてくださいよ。」
吹奏楽部員は何かしら悩みを抱えているのだ。僕もその一員と言ってもいい。
「どうしたの?話聞くよ。」
「実は、金管楽器の先輩や同級生からいじめられてます。」
よくあることだ。人間関係は正直、面倒くさい。どう良くしようと思ってもなかなか良くならないのだ。それが吹奏楽部。
「うんうん、何か演奏面で上手く出来ないのかな?」
「1人しかユーフォニアムはいないのです…。だから、いつもボロボロに言われてしまいます。」
ユーフォニアムとは、簡単に言うとチューバの一回り小さい楽器のことである。
パート一人、ましてや一年生。それは仕方ない。先輩ももっと気を遣って優しく接しなければならない。
強い言い方だと音楽でも強い音しか出ない。優しい人には優しい音が出る。音楽は人間性と関係していると僕は思う。
そのことをハルさんに伝えた。そしたら
「実は他にも…お母さんにも相談したら『自分が出来ないのが悪い。自分が悪いから』て言ってきます。」それを聞いて心の底がムズムズする。
「それって親も親だよ。普通、我が子を助けるのが親だよ。そんなこと言うのはおかしいやろ、」
「いつも、殴られるんです…」
「え?虐待やない?」
「いつもなので慣れてます。」
そのような親がいていいのか。子を殴るなんていいのか。
「大丈夫ですよ。心配しないでください!」
「心配するよ、そんなの…」
「先輩、て優しいんですね…。私、好きになったかも…」
僕は驚いた。30分話しただけで人の感情が変わるなんてこの人、大丈夫か?!
「そんな、好きなんて気のせいだよー。」
「いいえ。私、優しくてイケボであなたのこと好きになりました。」
告白された。初めてだ。しかし、僕は戸惑った。
「ごめんね。こういうことはやめとこうや。話を聞くことは出来るからね。声ともになろうか。」
「はい…分かりました…。」
ぼくとハルは声ともになって通話を終わった。
それと同時にLINEから通知が来た。
『ゆずさんがQRコードであなたを追加しました。』
ネットの人って何かしら悩みを抱えているのだろうか。自分の居場所を探し求めてこの世界に入ってきたのか。少しでも、僕の周りの人が元気になってくれればいいな。そんなことを僕は思ったのだ。
少しTwitterを見ようと思ったら、LINEからまた通知が来た。みすずからだ。
『まさよしくん!通話したい!いいかな?』
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