第8話 いつかどこかで聴いた歌

その狂った行為をしている間、「あたし」は、不思議な恍惚感に包まれていた


何度も、自分が唯の肉の欠片に、なって往きながら、嬉しかった。


なんか、あたし、かっこいいじゃん。


何て、想いながら、


刺してる間、ずっと。


どっかで、誰かと見た、遠くの記憶の向こうの、映画みたいに。


どっかで 誰かに 教わった、遠い遠い、ある惑星の、ロックスターみたいだ、と。


想いながら、恍惚の中で。


でも、私は、何度もこの世界に戻ってきてしまうのだった。


想像の中の、かっこいいロックスターの、死の夢は消えて。


残酷にも。


自分を切り刻んでいた間、白く美しくなっていた手は、


また黒くなり、


私は、また、起き上がる。


散々にめちゃくちゃに、血潮だけが飛び散った


暗く、黴臭い、狭い相変わらず、異臭に満ちた、この町の部屋で。


また繰り返す、絶望感に、溜息をする事も忘れて。


ただ、言えることは、私は「普通」じゃない事。


そんな私にも、名前が付いた。


「R2」


本当は、もっと長ったらしいのだけれど


皆がしているように、好きなように、省略した。


一応、働いているので、国から、名前を貰えたのだった。


でも、私は、どうにもこの名前が嫌だった。


ので、じいさんと、まだ住んでいた頃


近所の怪しい占いもやる、骨董屋の親父が、見せてくれた店内で


偶然、沢山古い本が並んだ棚で、手に取った一冊の、本の


適当に捲ったページに在った


唯一読めた、言葉


何故か、読めた言葉。


その親父は、ここに在るものは全部、


かつて存在した、地球と言う名の星から持ってきた


とても貴重な物ばかりだと、


嘘か本当か分からないことを言っていたけれども


「ハルジオン」


何故か、私は、突然、偶然、目に飛び込んできた


その不思議で、意味の分からない言葉を


気に入った。


その響きが。


それから「あたし」は自分の名前を


「ハルジオン」にした。


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