第9話 彼
「・・・?」
ここは、と有る、誰にも忘れ去られた、深く高い、山の頂に近い
濃くそびえ立つ、木々に囲まれた場所。
少しだけ切り開かれた、空間に、
小さな祠がある。
小鳥の巣箱を、少しだけ大きくした様な、慎ましい祠。
その少し離れた、簡素な藁ぶき屋根の小屋で
この祠を、守っている、十代半ば位に見える少年は、
何かの声を聴いた気がして、目を覚ました。
「・・・・?」
周りを見回す。自分しかいない筈なのに。
彼もまた、自分の今までの記憶がない。
いつから、ここで、一人、この祠を守っているのかも
何故、守っているのかも、知らない。
「・・・・??」
彼は、起き上がって、また周りを見回す。
耳に、手を当てる。
目を、閉じる。
祠と彼の小屋を取り囲む、濃い木々の間を、
風が通って往く、ざわめきと
遠く、山鳥の声しか、しない。
「・・・・・・・。」
彼は、そっと、小屋の外へ出た。
白い合わせの着物と、薄水色の袴が、朝日に照らされ、少し光を帯びる。
もうずっと、切ってなどいない、長く、黒い前髪から
少しだけ見える、少し虚ろな目。
でも、青く澄んだ、透明な湖水の様な、
深い深い、何かを知っているかの様な、目。
彼は、高い山の眼下に、遠く広がる水平線を、
目を細めて、少し懐かしい様な、不思議な想いで、見詰めた。
朝日に照らされた、その広大な、海は
その水平線の先は、何も、見えなかった。
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