Break2−2
シディアは名前を呼んだ声の主の方へ顔を向けた。
「あ!なに?なんで?久しぶりー!」
「えっと、時々、気分転換に来てる」
「コーヒー好きなの?」
「あ、うん……。シディアも?」
「コーヒーも好きだけど、ここの店員、友だちなんだよ。ねー、店長さん」
コーヒーのいい香りが届き始めている。
カウンターの向こうから、店主は、穏やかに笑っている。
客は、サービスされたクッキーをつまみ、先程の店員を思い出していた。
「すごいよね、ここの店員さん。自分の道に一生懸命で」
シディアは、嬉しそうに笑った。
「だよな。この店が好きで、一生懸命で」
カップが、静かにシディアの前に置かれた。外側が、深い青色をしたカップだった。
「ありがとうございます」
シディアは、ひとくち飲んで深く息をつく。
「知り合いか?」
カウンターの向こう側から、店主が話しかけた。
「はい。割と昔から」
シディアが答えると、店主は明るく笑った。
「その割には、しばらく気づいてなかったろ?」
「意地悪しないでくださいよ。いると思わないでしょ、ここに」
「それで?」
「進路相談なんですけどー」
「俺に?」
店主は目を丸くした。そしてその後で、心底面倒くさそうな顔をした。
「そういうのは、学校でやってこいよ」
「店長さんの話が聞きたいんです」
「何を悩んでるんだか知らないが、俺の答えはそのコーヒーだけだ」
「あの……」
シディアの友人である客が、遠慮がちに口をはさんだ。
「聞きたいです、店長さんの話、というか、意見を」
味方を見つけたシディアが目を輝かせる。
「だよな?!聞きたいよな!」
店主は、渋い顔をして天を仰いだ。
シディアの友人は、手の中のカップを見つめていた。その中にあるカフェオレを。
「ここに来て、コーヒーとかカフェオレをいただくと、ホッとするんです。他とは違う」
「それはどうも」
店主は、素直に喜んでいた。
客の言葉は続く。
「店長さんや店員さんも、ここで働くことが、心底楽しそうです。だから、そんな道を、どうやって見つけたのかなって」
どう答えるべきか店主が考えていたときだった。厨房の扉が開いて、テンとリタが出てきた。
カウンター席にシディアの姿を見つけたテンとリタは、そこに漂ういつもと違う真剣な雰囲気に、顔を見合わせた。店主だけが、いいところに来たと笑みを浮かべていた。
「お前ら、なんでここで働こうって決めたんだ?」
先に答えたのはリタだった。
「上司がいい人だったからー」
笑顔で答えるリタの言葉に嘘はない。
「テンは?」
リタが問うと、テンは、チラッと店主を見たあと眉間にシワを寄せて、テーブル席の方へ視線をやった。
「ここで育ったから」
ぶっきらぼうに答える彼の顔には、わずかに昔を思い出すような色が浮かんでいた。
シディアとリタから不満げな声が上がる。
「なんだよ」
不満げな反応に、テンは更に不機嫌になった。
「だって、テンは頭良かっただろ?」
「いろんな選択肢があったはずなのに、その中からここを選んだんだからー!」
「もっとなんかあるだろー」
シディアとリタが交互に不満の理由を述べる。
そんな中、店主だけが、機嫌よく微笑んでいた。
「いろんな選択肢があったはずなのに、ここで育ったって理由が、他の選択肢より強かったってことだろ?俺は、嬉しいけど?」
店長冥利につきると、店主は笑っていた。
三人が、店主の解釈に感心をしている。
テンは、なにも言わなかった。
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