第30羽 お別れ会?

突如打ちあがった花火。

 上空をきよろきょろと見回す。

 すると肩がぽんぽんと叩かれたので、耳だけそちらに向ける。


「もう耳だけとは、つれないですねぇ。まあそんなところも司徒様の良いところなんですけどね。では、王様たち、国のみんながお待ちですよ」


 一礼して一歩下がる奴隷商人。


「そうなんだぁ~なら、早く行かないとね」


「はいぃ。それではまたどこかでお会いしましょう」


 もう一度深々と頭を下げると、奴隷商人は仲間とともに、闇の中へと消えていった。

 僕たちは一度寝室に戻り、いつもの服装に着替え表通りに出た。


 その瞬間だった、【パンッ!パンッ!パンッ!!】と、孤児院の子供たちが、僕たちに向けてクラッカーを鳴らした。

 そのクラッカーの音を合図に、帝国音楽隊のドラムが鳴り始め、この世界の人々なら、子供から大人まで誰もがしる歌英雄の歌を歌い始める。


「これわたしたちからのプレゼントだよ!!」


 孤児院の子供たちが、あのローブを僕とイースターさんの首にかけてくれた。


「ありがとね、家のことは任せたよ」


 そう言って頭を撫でたりしてあげると、元気に「うん!!」と言って、聖女さんの元へ戻って行った。


【ザッ!ザッ!】


 と、モーゼが海を二つに割ったように、国民が左右に別れ、この帝国の王であるマッサルさんの場所までの道ができた。


「英雄のお通りだぁーーーー!!!」


 少しこちょばいかったけど、顔をあげて真っ直ぐマッサルさんの元へ向かう。


「やっほー」


「結構普通なんだな、司徒様」


「うるせえ」


「ま、それはさておき。タイ二ィー例のものを!!」


「はぁーい!!今行きますわぁー!」


「例のものって?」


「……」と目を逸らされた。


 仕方なく少し待っていると、よんしょ、よんしょと、自分のウエスト位のサイズの腕輪を持ってきた。


「お久しぶりですわね、コウヅキさん、それとイースターさん。」


「うん、久しぶりだね??自意識過嬢・さんは、一緒じゃないんだね。いつもなら、ここで割って入ってくるのに」


 いつものあの人がいなかった。いつもなら、タイちゃんの半径5メートル以内には必ずいるのに。


「シルちゃんの事ですね、シルちゃんが眠ってる間に、ベットに縛り付けてきましたわ。あの娘一度眠ると、なかなか起きませんから」


 そんなことを笑顔で言うタイちゃん。


騎士として、守られる姫さまとしてそれはどうなのだろうか?


「それじゃあお父様。イースターさんの分は、お願いしますわ」


「はいよぉ!……う、やはり少し重いな」


 タイちゃんから、その丁度イースターさんの腕にハマりそうなくらい、大きい腕輪らしきものをマッサルさんが受け取る。


「さて、ここに宣言する!英雄イースターと!英雄リオに、この王家が認めた証である、ムーンリングを授ける!そしてリオ殿、貴方には、公爵の位を受け取ってほしい」


 マッサルさんが高らかに宣言した。

 僕とイースターさんは、互いに右手をマッサルさんたちに向ける。

 イースターさんのをマッサルさんが、僕のをタイちゃんがはめてくれた。


「ありがたく頂戴致します」


 僕は珍しく膝をついて、王様に敬意を示す。


「そんなにかしこまらなくいいから、ホント今日は、君たちの為にこの祭りを開いたんじゃから」


「そうですわ?……あら?何かが聞こえませんか?」


「??」


 確かに何かドン、ドンといや、ズシ、ズシと地面が軋むような音が聞こえてくる。


「おーーーーーーぁーーーー!!!!!!」


 ?今何か聞こえたような…


「パァーあれぇ!」


 ソニカが指差した方向に顔を向けると、そこには自分の体の倍の大きさのベットを背負った自意識過嬢・さんがいた。


「はぁ。シルちゃん……」


 ため息をつくタイちゃん。


「お嬢様ーーー!!!私を置いてかないで下さいよぉーーーー!!!」


 あの人、もしかしてマッスルさんより力あったりして……てか、あの鎖に縛られた状態で、どうやって起き上がったんだろう。


そんな時だった、上空から真っ黒で大きな鳥が、タイちゃんを掴んで飛び去った。


「きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


「タイちゃん!!」


 あまりの恐怖に気絶するタイちゃん。

 僕を含めたほとんどの人たちの顔が、真っ青になる。

 タイちゃんの肩から、血が少し流れていた。

 そんななか、1人の女性の怒鳴り声が、地面を揺らした。


「私の愛する、私の私のお嬢様の真っ白で、シミひとつない肌に、よくも傷を付けてくれやがったな!!この鳥風情が、何してくれてんだぁーーーーーーーー!!!!!」


 その声の主は、自意識過嬢・さんだった。

 繋がれていない鉄の鎖を引きちぎり、自分のベットを担いだ。

 何をするのか?


「おおおおおらぁああああーーーーーーーー!!!死ねぇええええーーーーー!!!!」


 ベットが黒鳥の胴体目掛けて一直線に飛んでいく。


「ぎょえぇえええええーーーーーー!!!」


 黒鳥の断末魔が響き渡る。

 そして黒鳥と共に、気を失ったタイちゃんが落ちて来る。

 重力で加速する黒鳥の死骸とタイちゃん。

 黒鳥を足で山の向こうまで吹っ飛ばし、タイちゃんを優しくキャッチする。


「お嬢様!」

「……んあ?シルちゃん?」


「おおおおおおおおおおーーーーーーー!!!!」


 拍手と喝采が上がる。思わず僕たちも拍手した。

 自意識過嬢・さんは、ただの自意識過嬢・さんじゃなかったってことだ。


 その後はタイちゃんの傷を治して、みんなで祭りを昼過ぎまで楽しんだ後、僕たちはこの国を旅立った。


 目指すは南の国 サウスミッド王国!

 米と魚を求めて……

 こうして僕たちの新たな冒険が始まるのであった。

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