第26羽 苦しみの先に?

 僕の涙も止まっていた。黒兎が心配で、悲しさが吹っ飛んだのだ。黒兎は突如として、黙って、うんとも、すんとも言わなくなってしまった。


「黒兎大丈夫?」


 黒兎はゆっくりと顔を上げて、僕を見るなり泣き出してしまった。


「良かった、良かった。リオを助けられて、本当に良かった」


「!?」


 黒兎の声が変わっていた。それは、凄く聞き覚えのある、彼女の声だった。僕はポツリと彼女の名前を口にした。


「トオリ?」


「うん。私だよ、黒崎兎折だよ。リオの親友の兎折だよ」


 僕は戸惑っていたが、黒兎いやイースターさんにも、親友の名前を言ったことはない。だからこそ、黒兎がその名前を口にした時点で、兎折本人だと証明されたのだ。


 イースターさんたちをそっちのけで、2人で泣き疲れるまで泣いた。イースターさんは、状況を掴めてはいなかったけど、僕たちを抱きしめてくれた。少し経った後、イースターさんの背に僕と兎折改め黒兎が乗り、ソニカは久しぶりに卵袋に入って、頭だけを出していた。卵袋に入ろうとすると、ソニカは何故か小さくなれるのだ。本人もどうしてかは、理解していないようだ。


「いやぁークロ、兎折」


「リオ、黒兎でいいよ。私には、ちゃんと黒兎しての、記憶もあるし」


「うん、それじゃあ。黒兎、僕結婚したんだ」


「うん、知ってる」


「だよね。それで子供も出来たんだよ。可愛いでしょ」


「うん、それも知ってるし、可愛いよね」


「黒兎になら、娘を任せてもいい気がする」


「ふふふ、それは冗談では済まないよ。まぁ、私もやぶさかでは無いけど…」


 少し顔を赤らめている黒兎、こりぁ本当に満更でもない感じだな。親友として、父として応援してあげないとね。大丈夫、僕は認めてるよ。後はあれだ、僕と同じ親バカのイースターさんを攻略するだけだよ。頑張れ!


「きゅう?」


「何でもないよ、イースターさん」


「きゅ。きゅい〜♪」


 ふぅ、危なかったぁ。


 一度こっち側に、耳を向けていたイースターさんだったが、今は上機嫌に鼻歌を歌っている。


「リオは、ついに女の子になったのね?でもイースターさんは、妻なんだよね?うん?」


「それについては、深くは追求しないでくれると助かる。あと、僕はこんななりだけども男だよ」


「そっかぁ。色々苦労したんだね。まぁ、私が男いや、兎だからオスに生まれ変わっちゃったんだけどな」


「あはは…」


 まさかあっちの世界と、こっちに来てから性別が入れ替わるとは思はなかったよ。逆にしっくりきてるのが、不思議な感じだ。トオリは、あっちにいた時も、家が道場なだけあって、男勝りなほど漢気があったからな。話し方も、たまに男っぽくなるし。


 僕は確信していた。将来、近い将来、黒兎とソニカは、恋に落ちると。だって、意外にウブな黒兎と、僕の血を引く娘のソニカだよ。これが結ばれないわけないよね。


 でもあれだな、僕たち2人とも、女の尻にひかれそうだな。まぁ、僕はそれでいいんだけどね。だってイースターさんだもん。ねぇ〜イースターさん。久しぶりに、もふらせろぉ〜!!


「きゅ、きゅうー♡」


「ホントリオは、動物が好きだね」


「黒兎も好きなくせにぃ。知ってるぞ、家では動物が飼えないからって、休みの日には必ず近くのペットショップに通ってることを」


「ぎくっ、なんでリオが知ってんだよ。私1人の秘密の場所のはずなのに」


「ふっふっふ、動物いやもふもふある所に、僕ありだからね。黒兎が行ってたペットショップの店長さんとは、顔見知りなのさ」


 ふっとキメ顔で前髪をはらう。


「あの店長めぇー!」


 拳を握っていたが、当てる相手もいないので、直ぐに力を抜くのであった。


 あ、そうだ。まだ街に着くまで時間があるし、スライム1号の訓練をしよう。スライム1号をランドセルから出して、上空に思いっきり投げた。


「生体リンク視界(スライム1号)」


 スライムの視界に見えているが、僕の視界とリンクし城門が一瞬見えた。この生体リンクとは、あの悪友が読んでいたある漫画を思い出し、試しにやったらたまたま成功し、出来るようになった技である。


 原理としては、魔法の糸のようなもので、僕とスライム1号の視界をくっつけているような感じだ。


 最初は2重に重なって見えたりしたが、今ではこのようにしっかりと見るこどが可能になった。


 まぁ、そんなこんなで今日も無事に街に帰ることが出来るのであったとさ。そして時は流れる……

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