第4羽 春は出会いの季節?

 僕とイースターさんは、朝早くから出発した。イースターさんは、足が凄く速い。日本でも野生の兎はスリムで、足が速いという噂を耳にしたことはあるが、ここまで速いとは驚きである。


 半日ほどで森を抜けることが出来た、その間もやはり僕たち以外の生物を見かけなかった。もはや僕たち2人以外、この世界には生物は居ないのではないか?と錯覚してしまいそうになるほどだ。


「きゅきゅ〜♪」


「今日もいい天気だねぇ〜」


「きゅう〜う〜♪」


 絶好のお散歩びよりだ。などと、呑気なことを考えていると、獣道の先に誰かというか、馬車のような物が通ったような車輪の後と、馬の蹄の後を見つけた。


「イースターさん、ちょっとだけ降ろして。」


「きゅう。」


 僕はイースターさんの背中から降りると、馬の蹄の向きを観察する。U字の上の部分が僕から見て左に向いてるから、人か何かは右に進んだってことだよね。多分…ってことで、どっちに行くかは、決まりだ!


「イースターさん、おんぶ♡」


「きゅい♡」


 僕たちは右の方に向かって、とぼとぼと歩いて行くと、次は分かれ道になっていた。矢印付きの看板が付いていたが、文字が読めない。異世界に転移と転生って、普通文字くらい読めるんじゃないの?


 結局何度見ても分からなかったので、今回も誰かが通った形跡のある方の道に進んだ。それから1時間ほど歩いていると、外壁が見えてきた。この世界で初めて見た人工物に、僕は胸を躍らせていた。そのままその外壁に近づいて行くと、鎧を着た男が2人が門の前で立っていた。


「おっとっと、昨日飲みすぎちまってなぁ、まだ少しふらふらする、オロロ〜」


「おいおい、大丈夫か?ほら水だ……、なんか、暗くないか。」


「あ、あぁ…」


「こんにちはぁ〜」


「「?!」」


 僕とイースターさんを見て固まるなんて、この街の警備は大丈夫なのかと、少しだけ心配になるなぁ〜この街。


 話しが進まないし、生活魔法(水)


「水よぉ〜、出ろ!」


 祭りに売ってる水風船くらいのサイズの水の玉を飛ばした。


「はっ!」


 よぉ〜し、これでやっと話しが進む。


「門番さん初めまして、僕はカヅキ リオ。そしてこっちが、僕のお嫁さんのイースターだよ。」


「きゅきゅう!♡」


 何だよ顔なんて赤くしちゃって、このこのぉ〜可愛いぃなぁ…1回もふらせろぉ!


「きゅ??きゅうー!」


 イースターさんが悪いんだぞ!そんなに可愛いのが、行けないんだ!


 2人だけの空間を作り出す。それを見せられてる門番さんという、なかなかにシュールな光景が広がっていた。


 ーーーーーーーーーー数分後ーーーーーーーーーーー


 顔を耳で隠すイースターと、その横で腰に手を突いて満面の笑顔で立っていた。


「余は満足したぞよ、ガーハッハッハァー!!」


「きゅう(//∇//)」


 もお、お嫁に行けないって?もう僕のところのお嫁に来てるじゃないか。


 2人は10秒ほど見つめあったあと、ひしっと抱き合う。


「ええ〜と、宜しいでしょうか?」


「ハイなんですか、ハゲ眼鏡さん。」


「ハゲ眼鏡とは、私のことですか!?」


「眼鏡ハゲのほうが、よろしかったでしょうか?」


「どっちも結局ハゲで眼鏡じゃねぇか!!私にだって、ちゃんとツルリ・メゲェーネっていう、れっきとした名前があるんだよ!わかったか!」


「あ〜はい、ハゲさん。」


「もはやただのハゲじゃねぇか!」


「すみません、ツルツルさん。」


「そうそう、ツルツルさんな。…って違うわ!ツルツルじゃなくて、ツルリさんだ!」


「はいはい、わかりましたよハゲ眼鏡さん。」


「また最初からかよぉ〜もう、それでいいだがなハゲはやめろ、俺はハゲじゃねえスキンヘッドだ。わかったな。」


 スキンヘッドもハゲもあまり変わらないと思うけど…で、結局名前なんだっけ?まっいっか。


「あ、あとそこでゲロ吐いてるは、ゲロリ・ハァクだ。大体いつも、ゲロ吐いてるから気にするな。」


「よろしくなぁオロロー」


「あ、よろしくゲロリさん。」


「おいなんでゲロリは、ちゃんと名前呼びなんだよ!私の名前を言ってみろ!!」


「ん?ハゲ眼鏡さんでしょ。」


 どうしたんだろうそんなに落ち込んで?


「きゅうー」


 ん?イースターさん、僕が悪いって?だってハゲ眼鏡さんは、ハゲ眼鏡さんじゃないか。


「おいお前ら邪魔だぞ!お嬢様の馬車が、通れないじゃないか!」


 ん?おぉー、凄え豪華な馬車だな!それにしても、なんなんだこいつ。やけにツンツンしてるな。


「おいお前何だその人を舐め回すような、眼差しは?私の体が目当てなのか!お前からの求婚は、受けられないぞ、だって私は身も心も、お嬢様に捧げているのだから!!」



 はぁ〜まぁどうでもいいし、だって僕にはイースターさんが、居るのだから!


「もふん!お前何を勘違いしているのですか?僕には、ちゃんと婚約者がいるのですから。」


 これを見よ!この薬指の兎証の指輪を!刮目せよ!!

 ほら、イースターさんも!


「きゅい!!」


『ドヤァ!』


「く、何故か凄く負けた気が…そうだ、道を急いでたのでした、それではまた何処かでお会いしましょう。」


 やっと行ったな、それじゃあ僕たちも…


「おい1回待とうか、まずは身分証を見してもらわないとこの街には、一歩足りとも入れないぜ。」


 身分証?僕が持ってるのは、高校の学生証くらいしかって、あれ無い?


「まさかお前、身分証が無いのか?どんな田舎から、出てきたんだよ。」


「ん?そうそう身分証は無いんだよね。後、僕たちが住んでたのは、ん〜とね、あそこの山の上だよ。」


「何言ってんだよ、あそこは森の王者っていう、化け物の威圧で、誰も入ることが出来ないんだぞ。」


 ?森の王者って何処かで聞いたような?……っあ!それイースターさんのことじゃない?なんかアナウンスさんが、そんなことを1年前に言ってたような…。


「森の王者ってどんな姿してるの?」


「ん?えぇ〜とな、確か全体が白い毛に覆われていて、長い耳がピンと立っていて…」


 うんうん。白くて長い耳…


 イースターさんは、ハゲ眼鏡の言葉に合わせるように耳をピンと立てる。


「そして確か瞳は、赤かったらしいぞ。」


「やっぱり、それ多分イースターさんのことだよね。」


「?……!?ピンとした長い耳に赤い瞳、そして全身が白い毛で覆われている。…おいまじか?それが本当だったら、伝説級の化け物だぞ。」


「伝説級は良いとして、化け物は僕の奥さんに失礼です!」


「ぴょん。」


 イースターさんもそう思うって、だよね失礼だよね!


「あんたが本当にその化け物か確かめる為と、悪いやつじゃないか、判断するためにこの魔水晶に触ってくれ、これが黒になったら犯罪を犯しているってことだ。」


「それじゃあ、先ずは僕から。ほい…」


『パキッ!』


 今なんか変な音しなかった?まぁ気のせいか、さてさて色は真っ白か、良かった良かった。


「お前は入っていいぞ。次はその魔物の手を置いてくれるか?」


「きゅい」


『パリンッ!』


 水晶割れちゃったよ。流石愛しのイースターさんだ!まじ、かっこかわいい!!


「おいおいこんなの初めてだぞ!これはちょっとギルド長の連絡しないと、あ、後それとおいゲロリ!今すぐ、新しくて大きい魔水晶もってこい!」


「わ、わかったオロロー」


 どんだけ吐くのだろうか?逆に気になってきた、僕らが少し待っていると、先程壊した魔水晶の5倍くらいの大きさの魔水晶を運んできた。


「持ってう!…危ない危ない。」


「おうギルド長にも連絡しておいたから、もうすぐ来るだろう。先にその魔物の計測しておこう。」


「はいはい、でも次イースターさんを魔物って呼んだら…」


「呼んだら?」


『ブオンッ!』


 イースターさんが僕の投げたバスケットボールくらいの岩を、蹴り砕いた。


「わかった?」


 よしよし、わかったみたいで何よりだ。それじゃあイースターさん、もう1回その魔水晶に触って貰える?


「ぴょん。」


 おぉ〜今度は割れなかった!!流石だ、ついでに光りも白だから問題ないね。やったね、これで街に入れる。


「大丈夫そうだな。それにしてもギルド長遅いなぁ〜」


 ギルド長ってどんな人なのだろうか…


「ハーハッハッーー!!私が来た!!今日も筋肉鍛えてるかい!」


 金髪マッチョが現れた。


「ギルド長遅いですよ!」


「悪い、悪い。来る途中に重そうな荷物を運んでいる、おばあちゃんがいてな、その手伝いをしてたら、遅れてしまってな。」


 怖そうな人だけど、良い人なのかな?…てか、この人がギルド長なの!この上裸の金髪マッチョが!


「で、そちらさんが、報告にあったサモナーと、その相棒のイースターさんだったか?宜しくな!!」


「あ、はい。」


「ぴょん?」


 いつまでポーズしているのだろうか?


「よぉ〜し!それじゃあ、一緒にギルドまで行こうーじゃないか!」


 こうして僕とイースターさんの新しい生活が始まったのであった。…もふもふ最高!やっぱり、最後はイースターさんに甘えないとね。僕は、イースターさんの背で呑気にもふもふを堪能するのであった。

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