04話 アルズ国

「…………ん」

 ここは…。草原?

 目がさめると、そこは森ではく草原のようだった。

 そうだった、僕はあの狼に吹き飛ばされて…。

 ズキッ‼︎

 起き上がろうとすると、激しい痛みに襲われる。

 いってー‼︎身体のあちこちが痛い。

 これではまともに動けそうにないな。

 しばらくこのままでいよう。寝転び、空を見上げる。

 雲ひとつない青空だ。あの狼と戦っていた時の雷雲はもうなかった。


 それにしても、負けてしまったなぁ。

 異世界にきて初日で死にかけたんだけど。

 光の力が途中で使えなくなるし、訳がわからないな。

 まぁ、あれほどの強大な力だ。あれを使うにはなにか条件があるのだろう。

 どんなすごいものにも弱点はあるものだしな!

 それにこの力を使いこなすことが出来れば、僕は無敵間違いなしだ!


 ……今は無防備だけども。

 さっきの狼たちや鳥に襲われたら死んでしまうな。

 システム(?)的に転生者が死ぬことはないだろうよ!(笑)

 なぞの自信である。

 そんなフラグを立てたのが原因かは知らないが、遠くから足音が聞こえてた。

 ザッザッ

 え、うそ⁉︎まさか本当に来たの⁉︎やばいって、いま僕動かないー!

 ザッザッザッ!

 足音が近づいてくる。

 はいっ、やばーい!これもう死んだやつ。フラグなんて回収しなくていいよ!

 ザッ……ザッ。

 足音が止んだ。どうやら立ち止まったようだ。僕の近くでね。

 父さん母さんごめんなさい。僕は異世界でも役に立たなかったよ。生まれ変わったらきっと役に立つ人間になるよ…。

 えいっ!もう煮るなり焼くなり好きにしやがれ!

 …もう二度とフラグなんか立てないぞ。


「おい、坊や!怪我をしているようだけど大丈夫かい?」


 男の人の声がする。

 よかった、魔物ではないようだ。

 あと誰が坊ややねん!


「すみません、怪我をしたんです。助けてください。」


 坊やはさておき、とにかく今はどこか安全なところへ連れて行って欲しい。助けを乞うしかないな。


「近くに俺が住んでる町があるんだ、そこへ連れて行こう」

「…ありがとうございます。」

「いいってことよ!子供がこんな所にいたら危ないしな!」


 子供って…。僕もう23歳なんだけども。

 あ、そうか。この世界に来た時、中学生の頃の身体に戻ったんだっけ?

 忘れてたな。完全に…。

 男は僕を抱え、歩き出した。

 どうやら、本当にその男の住んでいる町まで連れて行ってくれるらしい。

 素直に好意に甘える。


「しかし、なんでそんな怪我をしてるんだ?喧嘩でもしたか?」


 はっはっはっ!と男が笑っている。

 おいこら、喧嘩した後の怪我にみえるのかい?

 だが、ここは誤魔化しておこう。


「ははっ、そんなところです。」

「そうか!だが、この近くには行かないほうがいいぞ。すぐそこには狼牙の森があるからな」

「…狼牙の森?」

「なんだ、知らないのか。狼牙っていう魔物がすんでいる森のことだ。」

 狼牙。あの狼、無駄にカッコいい名前なんだな。

「その狼牙の森は危険なんですか?」

「当たり前だ!狼牙はレベル5の魔物だぞ!」

「…レベル5。」

 何だそれは。危険度か?

「それも知らないのか?君はどこ国の者なんだい?」

 どこの国か…。日本なんだが、異世界だから通じないのだろうな。うーん。ま、いっか。

「日本という、遠いところから来ました。なのでここの事は分からくて…。」

「そうか、遠くから来たのか。ニホン。聞いたことがない国だな。」

 そりゃそうだろ、異世界にあるのだからな。

「あの、レベルってなんですか?」

「まぁ、待て。それはまた今度な。それよりも君はその怪我を治すのが先だろう?

 ほら、着いたぜ。アルズ国だ。」

 そう言って男は前を指差した。


 ここがアルズ国か…。

 何だかんだで異世界に来て最初の国だな。

 男に抱えられながら、僕はアルズ国を眺めた。

 何というか、静かな町だな。

 かつて住んでいた東京のような現代的な建物はなかった。

 あれだな、RPGでよくあるような、冒険者が最初に訪れる感じの町だな。

 いいねー、こういうの!ワクワクする!

 やっと異世界生活の第一歩を踏み出せた感じだ。


「おじちゃん!ここで降ろしてよ。もう大丈夫そうです。」

「何言ってるんだ、君は怪我を…。あれ?傷が治って…。」

  そうなんだよな。ここへ来るまでに、なんか傷が癒えているんだよ。


 [自動回復リジェネ

 光の力の一つである。

 文字どうり、傷を受けると自動で回復する。

 山田の魔力が少し回復したため、発動した。

 もちろん、まだ山田は知る由もないが。


「だからもう大丈夫です。ここまで運んでくれてありがとうございます。」

「そうか?大丈夫ならいいんだが。」

「それよりも聞きたいことが沢山あります。質問してもいいですか?」

「おっと、これは長くなりそうだなー。仕方ない。それならあそこに行くといい。あそこなら俺よりも詳しく教えてくれるはずさ。」

 そう言うと、男はこの町の中でも一際大きい建物に目をやった。


「……あそこは?」

「あそこはギルドが作れたり、町や外からの依頼が集まってくる場所だ。まぁ、行ってみると分かるだろう。」

 そうだな。なんか面白そうだ!

「ありがとうございます!じゃあ、また!」

「おう!元気でな〜。」

 僕は男に勧められた建物の中へと入っていった。



 ――――――――――――――――――――――――


「アルズ国への侵略はいつ頃なさいますか。」

「早い方がいいのだろう?いつ雷鳴狼牙が目覚めるか分からないのであれば。」

「はっ!情報によれば、雷鳴狼牙は最低でも1ヶ月は姿を現さないかと。」

「侵略にはどのギルドがいくのだ?」

「ギルド【ミストラル】第四師団になるかと。」

「ならば大丈夫だな。」

「おそらくは。」

「ようやくアルズ国の領土を手に入れる時がきたな。あそこの領土を我がサレイヤ国の領土となると、他の国よりも優位に立てるぞ。」

 男は続ける。

「アルズ国侵略は二週間後とする!それまでに準備を整えさせろ!」

「はっ!了解しました。」


 五大国の一つであるサレイヤ国。

 その国はアルズ国侵略の手筈を整えていた。

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