03話 雷鳴狼牙
ヤツはゆっくりと僕の前に姿を現した。
この森で出会った狼…ではないな。
姿は
だが、あの狼たちよりひとまわり大きい。ツノも一本ではなく二本生えている。毛の色も白ではなく黄色。明らかに他の魔物よりも危険だということは言うまでもなかった。
【
この魔物の名である。
ここ『狼牙の森』のボスであり、その強さは他の狼牙の比ではない。
雷を操り、天候をも変えることができる。
雷鳴狼牙がいる限り、この森に近づこうとする者はそうそういないだろう。
しかし、雷鳴狼牙は滅多にその姿をみせない。
ではどのような時に姿を現わすのか。それは、危険な
この森が危険にさらされると感じた時、ボスである自分自身が出向き、危険分子を排除する。
今回、その危険分子が山田健斗であった。
あいつ、絶対この森のボスだよな…。
めっちゃ強そうだし、天気も変えたし。
転生してすぐにボスって、酷くない⁉︎まだ僕何もしてないでしょ!
うーん、どうするか。戦う?
でも出来れば戦いたくない。吹き飛ばしてしまったあの狼以外の2匹の魔物は、戦わずに僕が逃げたし。
こいつからも逃げようかな。
…無理そうだけどね。
バチバチバチッ‼︎‼︎
雷鳴狼牙は身体に電流を纏いはじめ、体勢を低くした。
攻撃体勢に入ったようだ。
仕方ない…。
なんで攻撃してくるか知らないけど、そっちがその気ならやってやるよ!
新しい力を使えるようになるかもしれないしな!
「おい、狼!これは正当防衛だ。悪く思うなよ。」
うわ、かっけぇ!こんなセリフ言ってみたかったんだよね。
…ちょっと恥ずかしいけど。
ガウッ‼︎
【紫電一閃】
先に仕掛けたのは雷鳴の方だった。
あれは吹き飛ばされる技だったな。
避けるか。
光を纏っている状態ならば、避けるのなんて容易いことだ。
僕の視点からは、あの狼が歩いている様にしか見えない。
だが、凄まじいスピードできているのだろうという事はわかった。
最初に会った狼のこの技は、止まっている様にしか見えなかったけど、あの狼はゆっくりだが、動いている。
雷鳴の【紫電一閃】を避け、僕は突き飛ばすように、掌で雷鳴の横腹あたりを押した。
バンッ‼︎
雷鳴は勢いよく飛ばされ、大量の水しぶきをあげながら湖の中へと落ちていった。
が、すぐさま雷鳴は湖の中から飛び出し、地面に立った。
二本のツノが白く光る。
ドォォォン‼︎
雷が空から落ち、山田に直撃した。
うおっ!ビックリした。
まさか空の攻撃があったとは、気づかなかった。
しかし、威力がすごいな。
僕の周りの木々が真っ黒に焦げている。
さすがはボスといったところか。
ウォォォン‼︎
雷鳴は空に向かい高らかに吠えた。
すると、次々に雷が落ちてきた。
それも無差別に。
おいおい、森を破壊するつもりか?
周りの景色がどんどん変わっていく。湖を囲んでいた木々は落雷により、灰になりもう見る影もない。あたり一面焼け野原になっていく。
一体どういうつもりなんだこの狼は…。
雷が自分に向かって落ちてこない。おそらく、こいつは雷を落とす場所を自在にコントロールできるはずだ。それなのに敵である自分を狙ってこないとなると、なにか理由がある。
―まさか。
雷が止んだ。
どうやら、僕の予想は当たっていたらしい。僕と雷鳴の周りは焼け野原になり、円形のバトルフィールドが出来上がっている。
なるほど、いいね!全力で戦おうって訳だ。僕も異世界にきてのはじめての戦闘だ。
ここは華々しく勝利を飾らないとな!
次はこっちから仕掛けてやる。
全力で走り、雷鳴のところに向かう。
雷鳴から見れば、速すぎて僕の姿を捉えることはできないだろう。
雷鳴の二本のツノが白く光る。
あれはもう見た。自分を狙った落雷だろ?
上に注意を払えばいいだけだ。もっとも、簡単に避けられるだろうが。
ピカッ、ドォォォン‼︎
雷が落ちた。
そしてそれは僕に直撃した。
……え?
何が起こったか分からない。雷はいつ落ちた?なぜ直撃した?いや、それよりも―
雷が落ちているところが
避けれないはずがない、僕は白い光を纏っている。落雷によるダメージもない。敵の動きだってスローモーションに見え………ない⁉︎
あいつが速すぎるのか?先程までは、ゆっくりと動いている様にしか見えなかったのに…。
バチバチッ‼︎
雷鳴は姿勢を低くする。【紫電一閃】だ。
―まずいっ!
なにが起こっているのか理解できないが、今はこの技を避けないと!
僕は右側へ避けようとする。
が、身体が動かない。全身が痺れている。
こ、これは…。さっきの雷で⁉︎
《魔力》
これは魔法攻撃や物理攻撃などの技を使う際に必要とする。威力が大きい技や魔法を使うほど、魔力の消費は大きくなる。
山田の力も例外ではない。ダメージ無効、超パワー、行動速度の大幅上昇。いずれも魔力を消費している。最初に、山田は雷鳴狼牙の落雷を受けた。普通の落雷ならまだしも、雷鳴が放った落雷の威力は凄まじい。一撃の落雷の防御で、魔力を多く消費し、2発目の落雷の防御で、超パワーと行動速度の大幅上昇に使われる魔力を防御に回したのだ。スローモーションに見えなかったのはそのためだ。
元々山田の魔力の量が少ないわけではない。雷鳴狼牙に会う前に、無駄に力を使い、魔力を消費していたのも原因だろう。
ともあれ、無敵といっても過言ではないあの力の唯一の弱点は、魔力が尽きると使えないということだった。
【紫電一閃】
目にも留まらぬ速さで向かってくる二本のツノが山田の身体に当たった。
「…がはっ‼︎」
そのあまりの威力に、山田は宙に浮き、吹き飛ばされていった。
――――――――――――――――――――――――
「おいっ!まだなのか!」
アルズ国の長であるマルコ=サニールは苛立っていた。
はやくしなければ…。
「ギルドの支援はもらえないのか⁉︎」
「色々なギルドに掛け合っているのですが、なにせ相手がサレイヤ国となると…。」
秘書である男が答える。
「くそっ!」
最悪だ。なぜだ、なぜ今『狼牙の森』で
今、大きな出来事が起こりそうになっていた。
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