第33話
仙造は、あらためてメディアの影響力を思い知った。そのお蔭もあって満天軒の評判は思った以上に広まり、仙造はテレビ出演をするようになり、雑誌にも顔写真が載るくらいになった。
仙造はまるで有名人になったような気がした。無理もないことだ。普段の生活もこれまでとは百八十度異なったものとなり、そうなるとこれまでの反動もあって金遣いのほうも荒くなる。
とみ子は随分と前からそれに気づいていたが、浪費癖がついたといっても、キャバレーかスナックに飲みに行く回数が増えたとか、高級腕時計を買うとか、車を新車に買換えるといった程度のことで、女にさえ奔らなければ多少は亭主が頑張って稼いで来るのだから仕方ないと思って何も言わずに黙っているものの、内心はそんなことに大金を使うようなら返済に廻してくれたほうが余程いいと思っている。
そんなとみ子の気持を推し量ることなく、仙造は毎日追われるようにラーメンを拵えつづける。想像以上の客足に材料もこれまでの量では間に合わなくなり、十日に一度の市の日が待ち切れないくらいだった。仙造はその日が来るとあとを従業員に任せ、早目に店を出て郊外に開かれる市に向かう。
このところ仕入れる量が半端じゃないだけに、火肉屋の店員から毎回品薄なのを聞かされる。商売の駆け引きなのかもしれないと思ったが、これがないと商売にならない仙造は、少々値が張ってもいいから都合をつけて欲しいと頼み込む。そう言われてもこればっかりは融通のつけようがない、と逆に店の方が頭を下げる始末だった。
普段から希少価値のある肉だからとは聞かされてはいるものの、走り出してしまったものはもうどうにもならない。それだけに仙造も必死の形相で喰い下がる。
「――うちのお得遺さんは満天さんの他に十一軒あるんですから、満天さんばかりに融通するわけにもいかないんですよ。そこんとこわかって下さいよ」
「わかってるよ。わかっているけどこっちだって必死なんだから――」
「わかりました、何とか頑張って集めてみますよ。でもこればかりは約束できませんからね。運良く都合がつけば連絡しますから、期待せずに待っていて下さい」
「わかったよ。無理言ってわるいね。そのうちちゃんと礼はするからさ」
仙造は、材料欲しさに口から出任せを言っているようにも見えた。
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