第31話
そんな夫婦の新商品に対する危惧も二週間で吹き飛んだ。
最初の一週間は鳴かず飛ばずの状態がつづき、仙造たちは嫌が上にも毎日気を揉むことになったが、徐々に客の数が増えはじめ、その客のほとんどが珍湯麺を注文するようになった。
満天軒はここ数年あったこともない盛況ぶりを見せる。仙造はもちろんのこと女房のとみ子も張り切った。
これまで昼の三時間と夜の営業でも時間を持て余していたのに、いまでは信じられないくらいお客の切れ間がない。これまでのマイナス分があるので余裕があるといった経営状態ではなかったが、多少持ち出しを覚悟して店員を募集する。
都合がいいことに、このところのラーメンブームがあってか、何人もの経験者が集まり、その中でも三人ほどメガネに叶った若者を即刻採用した。
ひとが増えたものの、スープの仕込みや材料の手配は任せられるはずがなく、こればかりは仙造の仕事だった。フロアーを任されているとみ子も、ひっきりなしに顔を出すお客にとてもひとりでは捌ききれなくて、昼と夜の繁忙な時間だけパートを雇うことにした。
客が立て込むようになってからひと月が過ぎようとしたとき、突然テレビ局から取材の申し込みがあった。これまではラーメン街道の古株としながらも、新参店の紹介ついでのような扱いを受け、口惜しくて眠れない日も少なくなかった。しかし今度ばかりは違った。仙造の満天軒をメインにした取材だ。仙造は勝ち誇ったような気分になった。
仙造は素早く頭の中で計算を組み立てた。仙造の店に限らず、どこもテレビで紹介されたあとは蜂の巣を突っついたような騒ぎになる。これが切っ掛けになって珍湯麺の評判が広まれば、とみ子が気にかけている借金の返済もそれほど長くはかからない。
上手くいけば、借金を返した上にいくつか店を出すことができるかもしれない、とそこまで思いを巡らせた。
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