第28話

「とみ子、明日の休みにこの材料でラーメンを拵えるからな。もし上手くいけばこれで勝負したいと思ってる」

「愉しみにしてるわ」

 とみ子は嬉しそうな顔をして、上目遣いで味噌汁を啜った。


 仙造は明け方近くになってやっと眠ることができたが、それも束の間で、何かに弾かれるように寝床から飛び起きると、朝食もそこそこにキッチンに立った。

 少し大きめの鍋に水を張り、頃合いを見て昨日買って来たダシ袋を放り込む。しばらく鍋の中を凝視しつづけ、思いついたように冷蔵庫から火肉の塊りを取り出すと、三ミリほどの厚さに数枚切り分けて大事そうに鍋の中に投入した。それが適量なのかどうなのかは知るところではない。ただこれまで培った料理人の勘が頼りだった。

 とみ子が何気なく言った言葉がふっと脳裡を掠める。しかしいまの仙造は何かに取り憑かれたようになっているために、自分の感情を差し挟む余裕などなかった。

 湯が沸々と湧き上がってきた。ダシが出たのか鍋の中が薄っすらと黄金色に染まった。少し火を弱める。調味料を加えて味を調えはじめた。ここからはこれまでに何度も繰り返してきたこともあって、動きに澱みがない。ただ、はじめての食材なだけに慎重を期した。

 何度も味見をし、そのたびに調味料を加える。それを四、五回繰り返したあと、納得するようにゆっくりと縦にかぶりを振ると、勢いよくガス台のスイッチを切った。

 仙造は別の鍋に湯を沸かすと、いつも店で使っている麺を二玉入れ、二分を目標に菜箸でゆっくりと円を描きはじめる。すでに仙造の頭の中には試作ではあるが新しいラーメンの完成形ができ上がっていた。


「とみ子ォ――。できたぞォ」

まるで子供のように大きな声で呼んだ。

「できたの?」

 洗濯をしていたとみ子が小走りに姿を見せると、胸のあたりで小さく手を叩きながら言った。

「ああ、いまドンブリに移すから、味わってみてくれ」

「その口振りだと、上手くいったようね」

 とみ子は嬉しそうだった。

「とりあえず、焼豚とかメンマとか余分なものは何も入れなかった。スープの味と麺のバランスだけを考えて食べてくれ」

 仙造は自信ありげにとみ子の前にラーメンを勧める。自分も早く味見をしたかったが、それよりも先にとみ子の反応が見たかった。

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