第27話

「どうだった? 何か収穫あった?」

 とみ子は飯を口に入れたまま訊く。

「ああ。偉龍如の新しい店に行った。この前おまえと一緒に食べたのと同じものを注文したよ。まったく同じ味だった――」

 仙造はそのあとの出来事を事細かくとみ子に話す。とみ子は何度も点頭しながら真剣に話に耳を傾けた。

「――ところで、そのヒ・ニ・クって何の肉なの? 大丈夫なのそんな得体の知れない材料を使って。保健所から何か言われない?」

「俺もよくわからん。だけど、偉龍如の店で使っているスープのベースであることに間違いない。保健所には関係ない、だってまだ店で出すかどうかわからないからな」

「ふん、そうだけど――で、ヒ・ニ・クってどんな字を書くの?」

「火の用心の『火』という字に、肉の『肉』っていう字だ」

「ヒと、ニクって書く肉の種類なんて聞いたことないわね」

 とみ子が洩らした言葉に、仙造ははっとした。


まさか――そんなことを考えてもいなかった。


――言われればそうとれないこともない。つまり「人肉」ということなのだろうか。確かではないがおそらくそうに違いない。

 仙造は口まで出かかったその言葉を咽喉の奥に呑み込んだ。

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