第24話
これまでいつも使うものしか頭になかったが、こうして一同に並べられると、これらを組み合わせてにスープの味を探ろうすることは、大海で流木に遭遇するくらい気の遠くなるような作業量だ。考えただけでもぞっとした。
店先の材料も気になったが、それ以上に偉龍如の店長が気になる。
首を長くして捜しているうちに、角の方にぽつんと出店している店で何やら話している姿が目に入った。目の端で見逃さないようにしながら一角に設けてある喫煙コーナーに足を向けた。壁を背中にしてタバコに火を点ける。ここからは遮るものがなく、立ち話をする男の姿が見通せた。
タバコを消そうと俯いて顔を上げたとき、男の姿はなかった。
慌てて目で追うと、男は白いビニール袋を幾つも提げて足早に建物の出口に向かっているところだった。仙造は後ろ姿を射るような視線で見送った。
ここまで案内してくれたらもうあとを追う必要はない。謎の半分以上は解明できた。
セカンドバッグのベルトを左の手首にかけ、ゆっくりとその店に向かう。店の前まで来ると、オープンショーケースの前で立ち止まり品定めをするかのように覗き込む。店の中から咥えタバコで石油ストーブで手を炙っていた兄ちゃんが仙造に声をかけた。
「へェ、らっしゃい。きょうも鮮度のいい品物が入ってますよ、いかがスか」
仙造はケースの商品に目を落としたまま、「うん」と小さく返事をした。
「ねえ、偉龍如の店長はよくここに顔を出すの?」
「ええ、そりゃあもう。多いお得意さんの中でも、結構古い方ですよ。市のある日には必ず……」
「そうなんだ。――それで、いつも何が多いの? 仕入れていくのは」
「いつもはこのダシ袋と、この火肉のモモです」
兄ちゃんは、何かが詰められた三十センチ四方の綿袋を掌の上でポンポンと弾ませながら言った。
「火肉?」
仙造は訊くような訊かないような声で言いながら小首を捻った。
兄ちゃんは、ご存知ないですか? と蔑んだような言い方をした。
「いや、そんなことはない」かぶりを振る。
急いで記憶の中に『火肉』という言葉を捜す。しかし、長年料理人をやっているが、これまで耳にしたことのない肉の種類だった。
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