第23話

 建物は軽量コンクリート製で、極端に窓が少なく、外観からするとまさに何かを製造する工場のように見えた。三メートルほどの高さがあるシャッターが三分の一ほど降ろされ、その下を数人の影が出入りしている。

 仙造は車から降りると、灯りの洩れるシャッターに向かってゆっくりと歩き出した。鼓動が烈しくハンマーを打つ。シャッターのところまで来たとき、度胸を決めた。


 内部は結構広く、床はコンクリートの三和土たたきになっていて、天井はなく、鉄骨を剥き出しにした屋根のあたりは、よく目を凝らさないとわからないほど薄暗かった。反面、水銀灯下の空間は思った以上に明るくて、まるで昼間のような錯覚をするほどだった。真冬でも暖房がなく、足裏からじんじんと冷えが伝わってくる。


 ラーメン屋専用かどうかはわからないが、やはり睨んだ通り、間違いなく材料市場だった。

 五十ほどの店が幾筋もある通路の両側に肩を寄せ合い、見たところどこでも見かけるような市場の光景が展がっている。威勢のいい掛け声があちこちで飛び交う。

仙造は物知り顔でゆっくりと品定めでもするかのように歩を進めた。


 仙造はまずはじめに入り口にいちばん近い店を覗いた。牛肉専門店だった。どうやらこの市場は専門店の形態をとっているようで、牛肉以外の肉はもちろん、内臓さえも置いてない。買うつもりはなかったがそれとなしに店員に訊ねると、親切に内臓専門の店を教えてくれた。


 牛肉専門店を離れ、品物を物色でもするかのような足取りですべての店を見て廻った。まるで夢の中に身を置いているようでまったく信じられなかった。

 牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉は言うまでもなく、熊、猪、タヌキ、あげくは犬や猫にいたるありとあらゆる肉類が店先に並らんでいる。しかし流通頻度の低い肉は捌かれてビニール袋に入れられ、その上冷凍してあるので本物かどうかは店を信用するしかないが、とにかくいままで見たこともないほど数多くの種類が山のように積まれてある。それぞれにつけられている値段を見ると、どれも業務用価格より三割ほど安いような気がした。

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