第11話 グルメ番組

 このところラーメン街道は様々な意味で賑わっている。

 何年か前にもこれと同じようなことがあったが、これほど派手なものとは違っていた。

 今回、偉龍如の開店がその口火となった。毎日のように客が列を作り、評判が評判を呼ぶようになると、当然マスコミも放って置くはずがなく、グルメ番組はもとよりニュース番組からワイドショーに至るまで各TV局が競うように報道をはじめた。

 グルメ雑誌の方も指を咥えて見ているはずがなく、騒ぎに乗り遅れないようにラーメン街道の特集を組む情報誌も少なくない。

 その影響もあって、仙造の店にもついでのように取材の話があったが、カメラが店に入っても放映となるとほんの数秒に留まり、雑誌を開いたところでやはり偉龍如や麺辰がどの店よりも大きく取り上げられ、満天軒などは最後の方に申し訳程度に載せられているというのが現実で、それを目の当たりにするたびに仙造の胸の内で沸々と反骨の闘志が燃え滾るのだった。


 この騒動の渦中、仙造は毎日新聞のラ・テ欄を愉しみにした。それには内に秘めた思惑があった。これまで政治に対して興味が強く、新聞を手にすると必ず最初に政治欄に目を通す仙造だったが、いま自分の置かれた立場を考えると、政治に気持を傾けている場合ではなかった。

 仙造はラ・テ欄を上から下へ、左から右へと目を通し、目ぼしい番組があればビデオの予約をする。こればかりは決してとみ子に任せなかった。それほど気を入れて自分の観たい番組を予約した。仙造がそこまでして観たいと思うのは、別にスペシャル番組でも連続ドラマでもなく、ただラーメン街道、あるいはそれを連想させるようなタイトルの書かれたものだった。


 仙造には他の店のことなどどうでもよかったが、偉龍如の厨房だけはどうしても観たいと思った。グルメ番組のお店紹介では、テレビ局の傲慢さで店の都合も無視した状態でズカズカと厨房に入り込み、企業秘密とわかっているスープの中身に関してレポートをする。これまでそんな無意味な番組を配信するテレビ局に対して少なからず憤りを覚えていたのだが、今回に限ってはそんな無遠慮な番組を利用して、何とかあの店の秘密を盗み見たいと思った。

 ところが、十以上番組を録画したのだが、どれを観ても決してスープの材料を公開するようなカットはなく、いつも決まって「ここから先は企業秘密ですから、カメラはだめです」と決まり文句を並べ、カメラは勿論のこと、レポーターさえも厨房から追い出された。

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