第6話
店の中に入ると、まず自動券売機で食券を購入しなければならない。それからして自分の店とは違っていた。どんな種類のラーメンに人気があるのかわからなかったから、とりあえず定番の醤油と塩ラーメンをひとつずつ試すことにした。入り口に近い席に坐り、なるべく顔を上げないようにして注文が出てくるのを待った。
オープンして一週間以上経っているが、まだ建材の匂いが抜け切れておらず、新装開店の空気は充分に漂っている。
厨房の中では次から次へと入る注文を裁くのに、四人の若い店員が目まぐるしく動いていた。
目の前に勧められた醤油ラーメンのドンブリの中をひと通り見廻す。支那竹に焼き豚が二枚、それに半熟のゆで卵が半分に切られて入っているだけだった。見たところどこにでもあるラーメンのように見えた。
そっとレンゲでスープを掬い、それを鼻先に持って行くと、まず匂いを確かめる。香りは透明感があり、臭みの消された申し分のないものだった。
あまり長いことそのままでいるのは怪しまれると思い、急いでスープを口の中に流し込む。仙造は反射的に小首を捻った。想像していたものとは違うし、それ以上に愕いたのは、これまでに味わったことのないものだった。
仙造は麺を啜りながら考えるものの、どうやってもスープ材料の分析ができない。
黙って隣りで塩ラーメンを啜っていたとみ子にいって、スープをひと口飲ませてもらった。
どうやらベースのスープは同じようだ。
しかし、それがどう造られているのかひどく気になった。と同時に、なるほどこの味だったら客が列を拵えるのも無理はないと感じた。
打ちのめされたような重い気持で店に戻った。
前掛けの紐を締めながら、このままでは間違いなく潰される。そうならないためにも何か手を打たないといけない。そうかといってすぐに妙案が浮かぶはずがない。仙造の頭の中には、とてつもなく大きな渦が飲み込まんばかりの勢いをもって捩れた。
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