哲学的対話集
倉田日高
哲学的対話集
トロッコ問題
問一
一台のトロッコが暴走し、分岐に差し掛かろうとしている。このまま進めば、トロッコは五人の人が立っている線路へ突き進み、撥ねてしまう。しかし、あなたが分岐を切り替えれば、トロッコはもう一方の線路へ進む。だがそちらには、一人だけ人が立っていて、今度はその一人が撥ねられてしまう。
あなたはその場合、線路を切り替えるだろうか。
問い二
暴走するトロッコの線路上に、五人の人が立っており、このままでは撥ねられてしまう。しかしあなたの目の前には太った男が立っており、男を線路へ突き飛ばせば、太った男が撥ねられる代わりにトロッコは止まり、五人は生き残る。
あなたはその場合、太った男を突き飛ばすだろうか。
――――――――――
あるところに一人の哲学者がいました。
ある日、哲学者が道を歩いていた時、一人の男が向こうからやってきました。
哲学者は話しかけました。
「あなたはトロッコ問題を知っていますか?」
哲学者が最初の問題を説明すると、男は少し悩んで、分岐を切り替えると答えました。
次に哲学者が二問目を説明すると、男はまた悩んで、今度は突き落とさないと答えました。
「なぜ判断が変わったのでしょうか」
哲学者が尋ねると、男は返答に困り、悩みはじめました。哲学者はまた歩き始めました。
――――――――――
哲学者が道を歩いていくと、今度は政治家がやってきました。
哲学者は話しかけました。
「あなたはトロッコ問題を知っていますか?」
哲学者が最初の問題を説明すると、政治家は少し悩んで、分岐を切り替えると答えました。
次に哲学者が二問目を説明すると、政治家はまた悩んで、突き落とすと答えました。哲学者はまた歩き始めました。
――――――――――
哲学者が道を歩いていくと、今度は宗教家がやってきました。
哲学者は話しかけました。
「あなたはトロッコ問題を知っていますか?」
哲学者が最初の問題を説明すると、宗教家は返答に困り、悩み始めました。哲学者はまた歩き始めました。
――――――――――
哲学者が道を歩いていくと、今度はあまのじゃくで有名な男がやってきました。
哲学者は話しかけました。
「あなたはトロッコ問題を知っていますか?」
哲学者が最初の問題を説明すると、男はトロッコを脱線させると答えました。哲学者は肩をすくめ、また歩き始めました。
――――――――――
哲学者が道を歩いていくと、今度は老婆がやってきました。
哲学者は話しかけました。
「あなたはトロッコ問題を知っていますか?」
哲学者が最初の問題を説明すると、老婆は
「では、あなたはどうするのですか?」
と問い返しました。
哲学者は返答に困り、悩み始めました。老婆はまた歩き始めました。
――――――――――
哲学者が悩んでいると、今度は小さな子供がやってきました。
こんな子供に尋ねて意味はあるのか、と思いながら、哲学者は話しかけました。
「あなたはトロッコ問題を知っていますか?」
哲学者が最初の問題を説明すると、子供は黙って哲学者の背後を指さしました。
哲学者が振り返ると、そこには引きつった笑顔の警察官が、彼に職質をしようと立っていました。
哲学的対話集 倉田日高 @kachi_kudahara
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