『147、協力者』

周りの敵を闇魔法で眠らせながら進むこと3刻あまり。

俺たちは最上階の一歩手前の階で休憩を取ることになった。


「ここには俺たちの協力者がいるんだ。みんな国王に反対している人たちさ」

「分かった。ちょっと顔を出していこう」


協力者がいるのなら、俺たちが知らない情報があるかもしれない。

俺が小さく頷いたところで、目の前にある茶色の扉がゆっくりと開かれる。


中は会議室のようになっていた。

テーブルが一方を向いて並んでおり、見慣れた人たちが座っているのが見える。

その先には黒板らしきものがあり、今はカンナさんが険しい顔のまま虚空を睨んでいた。


「皆さん、リレン王子をお連れしました」

「おお、ジューンはご苦労様。やっと反撃のためのラストピースが揃ったね」


そう言って立ち上がったのはホブラック宰相だ。

彼もてっきり共犯なのだと思っていたが、もしかしなくてもこちらの仲間なのか?


いや・・・油断は禁物か。

父上が派遣しているスパイかもしれないし、第三者的勢力かもしれない。

警戒しておくに越したことはないだろう。


「申し訳ないけど時間が無い。モルネを倒せそうな情報を頼める?」

「はい。今回の事件ですが、国王様の執務室から多数の機密書類が見つかりました」


一秒でも早く父上を倒したい。

グラッザド王国の主要メンバーが揃ってエルフの国に来ているんだからな。

早く帰らないとアラッサム王国とかが攻めてこないとも限らない。


気持ちだけが焦る俺に近付いてきたのは、紙の束を持ったブルート騎士団長だ。

えっと・・・彼もモルネ反対派にいるのか。

騎士団は国が直々に抱えている部隊だから、てっきり障害になると思ってたんだけど。


「それで?」

「この書類なんですが、国王様がアラッサム王国と繋がっていることが分かりました」


渡された紙にざっと目を通すと、デーガンの始末を要請すると書かれている。

デーガンはアラッサムに救われたと思っていたが、始末されていたのか。


今回で言えばブルミさんのケースか。


彼女は口を割らなかったが、何かしらの秘密を知ってしまった可能性が高い。

だから父上に殺された。

死に至るほどの拷問といつ雷が落とされるか分からない魔導具を使われて。


「それで・・・カンナさんがいるということは、エーリル将軍の捕縛に成功したんですか?」

「いや、上手く逃げられた。恐らくはモルネに報告が行っていることだろうな」


壁際に立っていたラオン公爵が吐き捨てた。

その横に心配そうな顔をするマリサさんがいたため、俺はイグルを促して会話させておく。

しばらく様子を見ていると、俺に近付いてくる影が1つ。


遠目でも女性であることは分かったが、彼女がツバーナだと分かるのに時間を要した。

何しろ、彼女はボロボロだったのだ。


髪は乱れており、最後に見た時は綺麗だった服はあちらこちらが破れている。

一番目立つのは顔か。


いくつもの痣が付けられている上に、火傷のような跡がついているところもある。

まさか・・・嬲られたか?


「酷いわね。恐らくはモルネとエルフの国王にやられたんでしょうけど」

「やっぱり倒すしかありません!」

「いきなり叫ばないでくれる?一体どうしたっていうのよ」


アスネお姉さまが眉をひそめて尋ねると、ツバーナは髪の間から1枚の石を出した。

黄色に光っているということは記録用の石か。


「これを見てください」

「私たちが持っている石みたいな文章じゃない・・・ってええ!?」


素っ頓狂な声を上げたのはアリナお姉さまだ。

そこには、今まで隠されてきたモルネ政権の悪事がここぞとばかりに羅列されていた。


例えば、『他国と合同で古代魔法を復活させていた』とかいう文が書かれている。

これだけなら許容範囲だろうが、こともあろうに人体実験をしていたという記述があるのだ。


何の罪もない民衆が魔法の実験で殺されていた。

グラッザド王国の闇である。


その他にも、今回の事件は『王位継承権譲渡計画』と呼ばれていることも分かった。

ただ、解せないのは目的の項目だな。


『この作戦の目的は第1王子を次期国王にするための作戦である』と書かれているのだ。

ただ、第1王子は俺のはずで・・・。


「この文を見る限りだと、モルネには更なる隠し子がいたわけね」

「ええ。ただ、この第1王子というのは誰なのかしら。絶対にリレンではないし・・・」


お姉さま2人が揃って首を傾げた時、会議室のドアがゆっくりと開かれる。

みんなが硬直しているなか、入ってきた2人の人物は1枚の紙をテーブルに置いた。


これは・・・また機密文書?

タイトルは『優秀な第1王子について』とあり、この状況カ下では興味が湧くというものだ。

しばらく読み進めていくと、第1王子の名前が現れた。


「えっ・・・彼が第1王子?」


こう呟いたのは俺だったのか、それとも別の人だったのだろうか。

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