『148、最終決戦~第1王子の正体~』

ついにこの時が来たんだな。

俺は最上階にある唯一の扉を見つめながら、これまでのことを考えていた。


思えば3年前、前世の記憶を取り戻してからは波乱続きだったっけ。

お披露目パーティーではフォルス家の執事に命を狙われたり、冤罪をかけられたり・・・。


5歳になった際の領地巡りの旅では7人分の不正を暴いた。

久しぶりに王城に帰ってこれたと思ったらイルマス教国に向かって反乱の鎮圧。

そこで仲間たちが龍魔法にかけられて離反した。


王城にトンボ返りすれば、イグルがエルフの国に攫われたとかいう情報が入るし。

もう・・・心安らぐ時がない。

死亡フラグにはなってしまうだろうが、父上との戦いが終わったらゆっくり休みたいな。


「じゃ、行くよ」

「ええ。リレンを殺そうとした挙句、ブルミを手にかけたことを後悔させてやるわ」


アスネお姉さまが目の前の扉を睨む。

そしてジューンの手によって扉が開かれかけた時、俺は違和感を感じて扉を閉める。

次の瞬間、扉に何かが当たる音が響き渡った。


「音からして火魔法?」

「扉には魔法を無効化する結界が張ってあるから燃えないわ。だからこその選択ね」


ツバーナが恨めし気に呟く。

俺は扉に耳を当てて室内の音を確認。

魔法を放ってくる気配がないことが分かると、取っ手に手をかけて一気に開けた。


「よくここまで来たな。愚かな者たちよ」

「モルネ=グラッザド。あなたに聞きたいことがいくつかあります」


発言したのはツバーナだ。

国王たる父上に、俺たちが失礼な物言いをするわけにはいかない。

しかし他国の王女という立場にあるツバーナであれば多少の齟齬は気にならないはずだ。


話の口火を切るには十分である。


「いいだろう。今の俺は最高に気分がいいからな。何でも聞くがよい」

「僕を殺そうとしたことについてです」


俺は前置きなしにそう言うと、ツバーナから受け取った記録用の石を見せつけた。

そこには、あの『王位継承権譲渡計画』の概要が書かれた書類が浮かび上がっている。

わずかにだが、父上の顔が険しくなった。


「これは・・・誰が作ったものなのか。我が息子を殺そうとするとはとんだ不届き物だな」

「とぼけないで。書類の一番下にあなたのサインがあったわよ」


抑揚のない声で追及したのはアスネお姉さま。

父上を目の前にしたことでブルミさんが殺された件が蘇ってきたのか、お怒りのようだ。


「クッ・・・だがそんなものは偽造だ!」

「ここには第1王子を次の王にしたいと書かれています。さて・・・この人は誰なのでしょう」

「まさか・・・私の他にも愛人がいたの?」


父上が連れて来たのか、ベッドの淵に座っていたハーナンが非難めいた声を上げた。

隣にいた母上は笑顔を崩していない。

最も目のハイライトは消えており、今にもビンタをしてしまいそうな感じではあったが。


「昔の話だ。今はいない!」

「そうでしょうね。ここには第1王子の名前が書かれていました」

「えっ・・・第1王子はリレンじゃないのか?」


イグルの問いに父上は顔を青ざめさせ、俺は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

これで父上の破滅はほぼ確定だろう。


何せ、この場には作戦内容を知らされていない人もいるはずだ。

全員が俺の味方になってくれるなどと甘い算段を立てているわけではないが、それでも一定数の人たちは味方になってくれると思っている。


まさか・・・全員が敵なんてことはないよね?


「母上は王妃って呼ばれているけど、実際は側室。本当の王妃は別にいるんだ」

「それで・・・本当の王妃って誰なの?」

「もうこの世にはいない人だけどね。本来の王妃はジューンのお母さんさ」


第1王子の母親の名前はハリン=サンラ。

ジューンの本名を調べたところ、ジューン=サンラだと分かり、彼がハリンさんの息子だということが明らかになったのである。


「お母さんが王妃ってことは・・・俺が第1王子ってこと?」

「いや、ジューンには国王ではないお父さんがいたはずでしょ?」

「そうだね。だから君は王子ではない。本当の第1王子はもともとは教会に勤めていた」


俺が無表情で告げると、わずかに動揺した人物が1人。

母上とハーナンは、隙あらば父上に掴みかからんと機会をうかがっている。


「でも父上の手で裏切りを強要され、当時は最大の裏組織だった“黒の影”に加入した」

「まさか第1王子って・・・」

「やっぱりアリナお姉さまは分かったね。第1王子は王城の料理長をしている・・・」


そこで言葉を切った。

全員が窓際に立っていた第1王子を凝視する。


「グリーソン=グラッザド。あなたが父上に王子殺しを決断させた第1王子です!」

「なっ・・・それじゃリレンは・・・」


母上は沈痛な面持ちで俺を見つめたかと思うと、グリーソンさんを睨みつけた。

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