『145、四年英雄決戦』
近付いてみると、その姿が白日の下に晒された。
「やっぱり・・・最後の砦はあなたか・・・。グラッザド王国将軍、エーリル=ラッド!」
「あの子たちはダメだった上に裏切り者がいたでしょう。直々に私が出るしかないじゃない」
剣を構えたエーリル将軍が冷たい視線を背後に送る。
後ろにはジューンなどの領主たちが険しい顔でそれぞれの武器を構えていた。
「こいつらを取り返しに来たみたいだけど・・・絶対に逃がさない」
「リレン、どうしてここに・・・」
牢屋の中から聞き慣れた声が聞こえてくる。
視界の端で牢屋を確認すると、イグルが愕然とした顔つきでこちらを凝視していた。
「イグルを助けに来たんだよ」
「何だって・・・。コイツはバカに出来ないほど強い。早く逃げた方がいいよ」
――いつもと違って声に張りがない。
試しに光魔法を牢屋の中に送ってみると、体中に傷を負った彼が浮かび上がる。
カッコいい顔も傷だらけで痛々しい。
イグルの悲惨な姿を見たとき、俺の心の中で何かが切れた。
「テメェ・・・僕の友達に何てことを!」
「そうだな。俺の息子に何てことをしてくれているんだ?」
俺の叫び声に同調するかのように、背後から怒気が籠もった低音ボイスが響く。
この声は・・・ラオン公爵?
「息子のことを捕縛したエルフの国王も許せねぇが・・・一番許せないのはお前だ!」
「一介の貴族ごときが将軍である私に逆らってただで済むとでも?」
「確かにお前の裏にはモルネ国王がいるんだろう。だが息子を失うことに比べれば!」
「地位など関係ないってか。とことん親バカだな」
この2人って確か、四年前の戦で功績を上げて地位が上がった2人じゃなかったっけ?
まさかこの場で剣を交えちゃうの?
「お前たちも手伝え。俺の剣でこのクソ将軍を葬ってやるぜ!」
「どれだけ不利な状況でも・・・グラッザド王国の将軍たるもの、退くわけにはいかない!」
エーリル将軍が剣を構えたところでラオン公爵が突っ込む。
風魔法なんか使っていないはずなのに、俺が何とか追える程度の素早さで突撃していく。
エーリル将軍は剣に火を纏わせてラオン公爵の剣を受け止めた。
「我に眠る魔法の根源、魔力よ。我の求めに応じて氷の釘を刺せ!アイス・ニードル」
「僕に眠る魔力の根源、魔力よ。僕の求めに応じて風の刃を飛ばせ。ウインド・カッター」
俺とリアンの義兄弟の援護魔法が炸裂する。
その時――エーリル将軍が指を鳴らしたかと思うと、執事服を着た男が集まってくる。
この人たちは・・・王城の執事!?
「うちの執事たちはリーダーのカルスを初めとして戦える者を集めている。援護しなさい」
「分かりました」
そう返事をして、感情のない目でこちらを見て来たのは副執事長のダールである。
カルスが信頼していた右腕だったはずなのに・・・。
「国王様から指揮官職を得ているエーリル様に逆らうわけにはいきませんからね」
「ただ・・・王子であるリレン様にも逆らうことが出来ないんですよね・・・」
ダールの横にいた執事の1人がそう言って苦笑した。
息子を傷つけられたラオン公爵の苛烈な攻撃を躱しながらエーリル将軍が瞠目する。
「どうしてだ!?」
「僕たちが仕えているのは王族の皆さんですから。それに人数は多いでしょう?」
こちら陣営には大人たちとリエルを除く王族全員がいるはずだ。
権力的には国王である父上の方があるけど・・・人数が多いなら権力も怖くない!
「執事たちが攻撃してこないなら好機。叩き潰すわよ!」
「分かってるわ。ブルミお姉さまを助ける!」
執事たちへの警戒に回っていたお姉さま2人も再びエーリル将軍への攻撃を開始する。
これでこちら側の陣営全員が攻撃に・・・あれ、ツバーナはどこ行った?
しょっちゅうパーティーから人がいなくなる。
父親である国王に対峙しているのならば、エーリル将軍を倒してから行けばいいか。
そう思ってエーリル将軍を見ると、苛烈さを増す攻撃に四苦八苦しているようだ。
表情に余裕がない。
「さすがに攻撃の手数が多すぎるわね。一旦、撤退しましょうか」
「モルネ国王に報告もしなければいけませんしね」
エーリル将軍の近くにいた執事がため息交じりに指輪を俺たちの方に突き出す。
指輪の結界を発動する気か。
「ラオン公爵たちは将軍を追って。僕たちはイグルたちを治療してから行く」
「分かりました。息子を傷つけた輩は逃がしません」
自信満々に胸を張ったラオン公爵は、指輪の結界に包まれたエーリル将軍を追う。
付随する形でカンナさんとラルドが後を追っていった。
「フゥ・・・ここはひとまずラオン公爵たちに任せておいて・・・僕たちはイグルたちを!」
「ブルミはどこにいるの!?」
アスネお姉さまが近くの牢屋を覗いていく。
顔を歪めたアリナお姉さま、ジューンも牢屋を覗き込む作業に加わった。
「あっ!?」
アスネお姉さまの悲鳴とともに、その場に崩れ落ちる声が響く。
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