『144、領主たちの反乱』
どこからか声がした瞬間、発動途中だった『固有結界』は綺麗に消滅した。
魔力が失せた格好である。
「誰だ!?まさか“アイツ”が来ちまったのか?」
「その言葉が誰を指しているのかは分からないけど・・・リレン王子の邪魔は許さない」
ボーランたちの背後から現れたのはラルド=エメだった。
不正事件の首謀者、メイザ=エメが逮捕された後でダリマ郡を治めている領主である。
確か・・・15歳くらいじゃなかったっけ?
「リレン王子、お久しぶりです。領地巡りの旅でお母さんを断罪して以来ですか」
「その言い方は止めてもらえる?」
俺が悪人みたいじゃないか。
まあ、ラルドにとってはお母さんを奪った張本人だから憎いのかもしれないが。
「まさか合体技が破られるなんて・・・」
「国王様の言葉は嘘じゃねぇか。組織の中にどれだけ裏切り者がいるんだよ!」
ボーランがシャウトして剣を構える。
血走った目でラルドを睨みつけ、突っ込むと同時に炎を剣に纏わせた。
一方のラルドは丸腰状態。
引き攣った顔をして後退するラルドに向かって燃え盛る剣を振ったとき、人影が割り込む。
「やっぱりか。だから剣くらい持っておけと」
「カンナさん・・・ありがとうございます。本当に助かりました」
次に現れたのは兄弟喧嘩の末にナスタチ郡を治めている領主、カンナ=マースである。
もともと女騎士だったということもあって、戦闘能力はかなり高い。
あのボーランを圧倒している。
「残りの4人は国王様や将軍様を引き付けてもらっている。ジューンは巫女姫と戦って!」
「了解。俺の剣術を見よ!」
やる気に満ちた目をしたジューンが剣を抜き、マイセスに向かっていく。
執事であったディッセが殺されたときもそうだったが、彼の剣筋には無駄がない。
誰かに剣を習っていたのかも。
「鬱陶しい剣術ね。今すぐ滅びなさい。巫女姫の名で命ずる。彼に裁きを!」
「光の裁き・・・巫女姫の最終防衛手段だな」
ジューンは小さく呟くと、俺たちを連れて階段の中腹くらいまで避難した。
光の裁きと言う技は巫女姫だけが使える技で、スポットライトのように光を出す技である。
それだけなら何の脅威もないのだが、光に当たったものは斬られる。
スポットライトの1つ1つが極太のレーザーのようなものだと思ってくれればいい。
弱点は防衛手段のため、近距離にしか発射されないこと。
ゆえに十分な距離を取ってしまえば何ということはないのだ。
「ここからでも斬撃で攻撃できるしな。むしろ相手は技の発動中だから動けない」
「クッ・・・どこまでも卑怯な!」
マイセスが殺気の籠もった視線で睨んでくるが、ジューンは意にも介さず斬撃を放つ。
すると、その様子を見ていたアスネお姉さまが杖を構えて水魔法を放った。
斬撃を避けたら水魔法に当たるし、逆もまた然り。
甲高い悲鳴を上げながら、巫女姫マイセスが地に伏した。
その脇では、カンナさんとラルドの2人がボーランを必死で追い詰めている。
やっぱりボーランは強いのか、苦しそうな表情を見せる2人を見て覚悟が決まった。
「よし・・・もう決めた!」
ここまで来たらもう仲間だったなどと言ってられない。
みんなだってボーランたちと戦ってくれているんだし、アスネお姉さまも覚悟を決めていた。
なら・・・俺が覚悟を決めなくてどうする。
イグルを助けたいという思いからエルフの王国に啖呵を切ったのは俺じゃないか。
仲間だからって情をかけている場合じゃないだろ!?
邪魔をするなら・・・倒すしかない!
「ボーラン、今のお前は障害物でしかない。さっさと眠ってしまえ」
「何だ・・・急に眠気が襲い掛かってきて・・・こんなところで倒れている場合じゃ・・・」
闇魔法、強力睡魔。
対象者を半日は眠らせてしまうという闇魔法の中でも上級クラスの魔法だ。
ボーランは睡魔には抗えず、そのまま目を閉じた。
「リレン・・・大丈夫?」
「僕は仲間すらも踏み越えてイグルを救う。そのために力のすべてを出し切るのみだよ」
そう言った俺はジューンの方を向いた。
ハッと我に返ったように、ジューンは通路の左側を指さした。
「あっちだ。拷問の時間は終わったはずだから・・・リレン王子の治癒魔法があればっ!」
「分かった。すぐに向かう」
すべてはこの時のためにあったのだから。
カルス、フェブアー、マイセス、ボーランと4人もの仲間を潰して報いようと思ったもの。
それは・・・異世界最初の友情だ。
イグル=フォルスという、前世を含めた今までの人生で最大の親友を助けようと動く。
やがて誰もいない牢屋が並ぶ区画に入った。
空っぽの牢屋の前には誰もいないのに、奥の牢屋の前に人が立っているのが目に入る。
あそこにイグルとブルミさんがいるのか?
でも・・・あの人影はっ!?
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