『139、王都に侵入して』

「さっさと行きましょう。少し風を強くするけど・・・飛ばされないように気をつけてね」

「適度にリラックスしていれば大丈夫。風に乗るんだ」


自分で言っておいてなんだが、セリフがファンタジーチックだな。

風に乗るって・・・。

前世でこの言葉を口走っていたら、完全にイタイ人である。


「リレンの言う通りね。変に固くなっていると一瞬で流されちゃうわよ」

「分かった。適度なリラックスならすぐ出来るだろうし、早く王都に入っちゃおう」


アリナお姉さまもバレないかどうか気が気ではないようだ。

チラチラと下を見て確認している。


その様子を見たアスネお姉さまが苦笑交じりに風を強くしていく。

今まで悩んでいた時間が無駄だったんじゃないかと思えるほどあっさりと門を超えられた。


ここがエルフの国の王都か。

基本的な作りはグラッザド王国やイルマス教国の王都と変わらない。


ただ、建物の色が緑を基調としている感じだ。

エルフの国の王都は自然豊かで、森に生きると言われているエルフらしい作りだな。


「あそこが目的地の王城ね。随分と遠いように思えるけど」

「このまま空中を飛んで進んだ方が早いかな?」


ログハウスのように丸太を基本として作られた王城は王都の中でも一際目立つ。

しかし、王城に辿り着くまでに相当な時間がかかりそうだ。

何しろ道が迷路のように複雑なのだから。

直線距離で行けば何でもないものを、わざわざ王都を一週してしまいそうな作りだ。


「空中からは無理。空中からの攻撃を防ぐために、あの辺から結界が張られているから」

「そこからなら歩いて2刻くらいかしら。いずれにしても遠いけど」


ツバーナが指さしたのは王都の中心部分。

中心部分から2刻って・・・どれだけ道を迷路調に改造したら気が済むのだろう。


つーか商人とかも大変だな。

王都に入るにも出るにも、毎回この長い道を歩かなきゃいけないんだから。


「でもこのまま浮かんでいてもしょうがないわ。魔力も消費するし、一旦降りるわね」

「もちろん中心部分に下ろしてよ?」


王都の中心で浮かび上がるというのはいささか現実的ではない。

むしろ黒龍騎士たちにバレる可能性が高いしね。

アスネお姉さまは頷いて風を調整しつつ、俺たちを結界ギリギリの場所に下ろしてくれた。


「ここからが勝負だ。黒龍騎士に見つからないように迷路を超える」

「分かっているわ。リレンは魔力量はどう?」


さりげなく後方を確認したアリナお姉さまが、声を潜めて問いかける。

俺は自分の魔力量を確認してみる。


「まだ大丈夫そうだけど・・・僕の魔力量が何か関係あるの?」

「透明化だと同じく透明化した黒龍騎士にバレるけど、リレンの光魔法なら・・・」

「バレないってわけね。よく考えたと思うわ!」


ツバーナが驚いたようにシャウトし、慌てて口を塞いで辺りを見回す。

俺も驚いた。


なるほど・・・俺が使っている光魔法はオーハス法だから、龍魔法には対応しない。

つまり、別の方法で透明になっているからお互いが視認できないというわけだ。


「じゃあ、光魔法はこのままかけておくね」

「ええ、頼んだわよ」

「それじゃ迷路式王都の攻略に乗り出すわよ。慎重かつ大胆に突き進め!」


「「「いざ、出立!」」」

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