『140、エピローグ~迷路式の王都~』

アスネお姉さまの指揮で王都を進む。

そういえば、エルフ以外の種族の位置を特定するという神樹の効果はあるのだろうか。

推測では風の障壁がそれによるものじゃないかと思っているが。


「フェブアーたちは大丈夫かな?」

「えっ・・・そういえば龍魔法の解除方法は黒い石の文章には書いていなかったわね」


思わず漏れてしまった言葉。

俺は・・・普通の人よりも仲間に対して甘いのだろうか。


普通、一度裏切った仲間に関しては多少なりとも疑念が湧くはずなのではないだろうか。

少なくとも俺の周りの人たちはそうだった。


前世の孤児院で一度だけ労働側によるクーデターが行われたことがある。

その時は主人側と労働側による激しい口論などの末、主人側の勝利で終結した。


しかし、クーデターに参加した子たちは主人側から疑念を向けられるようになったのだ。


曰く、また裏切るんじゃないか。

曰く、クーデターの時みたいに主人を追放しようと画策しているのではないか。


疑念はその子たちが巣立っていくまで消えなかったという。

おかげで唯一クーデターに参加しなかった俺は、前にも増して仕事が増えたのだが。


ただ、俺には疑念が無い。

例えばカルスの魔法を解いた後、また裏切ってしまうとはどうしても思えない。

漠然とそう思っただけ。


仲間を信じる気持ちだと思いたいし、主従契約に惑わされているだけだとも思いたくない。

ただ・・・どちらなのかは俺には分からなかった。


「リレン、大丈夫?疲れているのならどこかでちょっと休もうか?」

「そうだね、お願い。みんなは少しでも早く進みたいだろうに・・・ゴメン」


暴風のように荒れ狂う心を整理したかった。

俺たちは近くの喫茶店でお茶を飲むことにして店内に入ると、そこには予想外の人物が。


「あれ・・・フタンズさんじゃないですか。どうしてここに?」

「リレン王子じゃないか。今日はあの騎士は一緒じゃないんかい?」

「ちょっと事情がありましてね。それよりも、どうしてフタンズさんがここにいるんですか?」


重ねて尋ねると、フタンズさんは顔を歪めて自身の前にある席を勧めた。

あまり人には聞かせたくない話のようだ。


「よく聞け。一連の騒動は3人の人物の陰謀によって引き起こされた事件じゃ」

「どこからですか?」

「イルマス教国の内乱からじゃ。そして3人が目指すことはただ1つだけ」


フタンズさんは一旦言葉を切った。

わざわざ溜めたことで不安感が増していく中、ついにフタンズさんが口を開く。


「奴らが目指しているのはグラッザド王国王太子の殺害さ」

「えっ・・・僕の殺害!?」


俺は固まるしかなかった。

確かにイルマス教国に派遣されたのは俺だし、龍魔法で仲間を奪われたのも俺。


そう考えれば辻褄は合う。

だけど・・・俺が認めたくないのは陰謀に関わっている人の存在だ。


「正直に教えてください。陰謀に僕の父親、モルネ=グラッザドが関わっていますね?」

「――ああ。そう聞いたよ」


世界から色と音が消えるというのはこういうことを言うのだな、と初めて思った。

やっぱり父上が俺を殺そうとしていた。


石から聞こえて来た冷たい声は何かの間違いなのではないのだろうか。

何度そう思ったか分からない。

でも・・・フタンズさんによって父上の思いが分かってしまったのだ。


――俺を殺したいという思いが。


「父上はあそこに見える王城にいるのよね。会えたら文句を言ってあげるわ!」

「大切な弟を殺そうとするなんて!」


アスネお姉さまとアリナお姉さまが目を吊り上げてエルフの国の王城を睨む。


「だったら早く行かないと。もう時間がないわ」

「そうだね。フタンズさん、わざわざ貴重な休憩時間を邪魔してしまって申し訳ありません」

「いいえ。国王様と仲直りできることを望んでいるよ」


それは・・・無理だな。

俺たちにはこの国で見つけた切り札があるし、父上と俺が相容れることはもう無いだろう。


確たる根拠があるわけでもないのに、俺はそう思った。

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