『135、モックルデン伯爵邸 (Ⅳ)』

「父上がエルフの国と繋がっていたってことは・・・全て罠だったってことかしら?」

「そうですね。神樹の効果が高まっているとの報告もあります」


フローリーの言葉にハッとした。

エルフ以外の種族を探知できるという神樹のことを失念していたのだ。

つまり・・・既に屋敷が包囲されているかも。


「マズイわね。あと6日あるとはいえ・・・遠回りしなきゃいけないでしょうし・・・」

「今回の条件は黒龍騎士に見つからないことだからね」


厄介なのはこの条件だ。

見つかるだけでも失敗となり、親友のイグルやブルミさんを助けられなくなってしまう。

条件がなかったら強硬突破も使えたのに!


「とりあえず出発しましょう。建物の中に籠もっているのは包囲される危険性があるわ」

「そうね。悪手だと言わざるを得ない」


アスネお姉さまの言葉にツバーナが同意し、俺たちは競うようにして建物を出る。

すると門の前に信じられない人物が立っていた。


「カ・・・カルス!?」

「目が濁っているわ。まだ龍魔法がかけられた状態だと考えていいんじゃないかしら」


それってマズくない?

龍魔法が解除されていない状態で俺たちを助けようなんて思うはずもない。

完全に敵の手先じゃないか。


「我に眠る魔法の根源、魔力よ。我の手に集いて彼の者を眠らせよ。ハイパー・スリープ」

「闇魔法の一種ね。リレンが従者に対して使うなんて・・・」


アスネお姉さまが瞠目する。

魔法をかけられたカルスは何度も目を瞬かせ、やがてその場に崩れ落ちた。


今は・・・敵に連絡されるわけにはいかないんだ。


カルスが寝息を立てていることを確認した俺はゆっくりと近づき、胸ポケットから石を出す。

その石は真っ黒に光っていた。


「何なのよ、その禍々しい連絡石。黒いってことは黒龍騎士用かしら」

「多分そうじゃない?」


アリナお姉さまの問いに答えながら魔力を通していくと、やがて声が聞こえ始める。


「カルス!どうしたんだ!?返事しろ!」

「この声は・・・ボーランか」


魔力をギリギリ聞き取れる程度にしか流していないので、こちらの声は聞こえない。

もし、聞こえていたとしても蚊の羽音くらいの音だろう。


「リレンは見つかったのか?この国で捕まえて処刑しなければ意味がないだろう」

「この声は父上!?」


何の目的で王太子たる俺を処刑しようとしているんだ?

後ろにいる女性陣が殺気を出しているのを肌で感じ取っていると、再び声が聞こえてくる。


「今回の計画は順調です。どうにか王城まで無事で来て欲しいのですが・・・」

「計画を聞いた時は正気かと思いましたよ。特にエーリル将軍の案は酷かったですね」


前者はリアンの声で間違いない。

しかし、後者の声が俺にとっては信じられない人物だったため、少々驚いてしまった。


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