『130、エルフの国へ(Ⅵ)』

まさか黒龍騎士じゃないだろうな・・・。

俺たちは顔を引き攣らせながら、ゆっくりと隠していた顔を上げる。


「――あっ、ツバーナ王女!?」

「あなたは確か・・・モックルデン伯爵家の長男だったっけ?」


目の前に立っていたのは、蜂蜜色の髪に水色の瞳を持つ童顔の少年だ。

ただ、耳は尖っているからエルフなのだろう。


「ツバーナ王女はどうしてこんなところにいるんですか?」

「友人の親友がお父さんに捕縛されているのよ。文句を言ったら家を追い出されたわ」


相変わらず声には棘がある。

少年はツバーナの低い声に驚きつつも、辺りを掃くように見回してから跪いた。


「ならば私の家に来てください。黒龍騎士も貴族の屋敷の敷地内までは探さないでしょう」

「モックルデン伯爵とやらが裏切らない証拠がない以上、承諾できないわ」


ツバーナが答えるより先に、アスネお姉さまが拒否する。

当然のように少年は不快感を露わにした。


「どうしてあなたが返事をするんですか。僕はツバーナ王女に聞いているんです」

「彼女はグラッザド王国の第1王女よ。それと・・・私もアスネ様と同意見だわ」

「そうですか・・・。それでは黒龍騎士に報告するしかないですね」


途端に少年が顔を歪める。

どうやらアスネお姉さまが危惧した通り、本当に裏切ろうとしていたみたいだな。


というか・・・行動が早すぎるだろ。

1言喋っただけで本性を見せるってどういうことだよ。


その時、信じられないことが起こる。

今まで俺とともに成り行きを見守っていたアリナお姉さまが駆け出し、少年を拘束。

短刀を首元に押し付けてから耳元に口を寄せた。


「黒龍騎士に通報ですって?そんなことをしたら・・・どうなるかは分かるわね」

「なっ・・・脅すなんて卑怯だぞ!」

「黒龍騎士への通報をネタに脅そうとしていたのは誰よ。よくその言葉が言えたわね」


アリナお姉さまが普段よりも低い声で呟く。

ツバーナとアスネお姉さまが呆気に取られていると、アリナお姉さまが眉をひそめた。


「私たちは王都に行きたいの。どっちにいったら着くのかしら」

「だったら僕の家に来てください。ここよりは王都に近いはずですから」

「どうせモックルデン伯爵とやらも裏切り者でしょう。それを敵の本陣に来いなんて・・・」


半眼で少年を見つめるアリナお姉さまは完全に呆れていた。

どうにかしてこの状況を抜け出したい少年は頭を捻っているが、思わぬ助け船が入る。


「私はモックルデン伯爵の家に行きたいわ。古代魔法の秘密が解けるかもしれない」

「えっ・・・本気で言っているの?」


ツバーナが敵本陣への突入を提案したのだった。

イグルたちを助けられるタイムリミットまであと――6日と22鐘と30分。

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