『129、エルフの国へ(Ⅴ)』

激流を抜けた俺たちが降り立ったのは草原だった。

周りに水はないから不時着だが、激流から抜け出したと思ったらここにいたのだ。


一体、どのような仕組みなのだろうか。

周りには木などの身を隠せるものがないため、黒龍騎士に来られると厄介だな。


「まずは森とか街に行きたいわね。見つかるのは避けたいわ」

「川もないから方向がまったく分からない。どっちに行けば森とか街に着くんだろう」


方向については首を傾げるしかない。

下手に進んで、最終的な目的地である王都から遠ざかっては本末転倒である。

するとツバーナが土を確認して頷く。


「ここは王都の北側ね。ここからだと・・・歩いて3日くらいで王都に着くわ」

「北側って言われても、どっちに歩けばいいの?」


南側に歩いていけば王都に着くということだろうが、そもそも南がどちら側か分からない。

四方八方、見渡す限り草しかないんだから。


「船に搭載されている魔導具なら分かると思うけど・・・激流で壊れていると思うわ」

「あの国王はそこまで見越していたのかしら」


アリナお姉さまが苦々しい表情で呟くと、アスネお姉さまが船の壁にあるボタンを叩いた。

しかし、何の反応もない。


「やっぱり壊れているみたいね。私の押し方が悪いのかもしれないけど」

「いいえ。誰が押しても問題ないはずよ。反応がないなら確実に壊れているわね」


ツバーナが希望を一刀両断。

俺たちの頭の中に“絶望”の2文字がチラつき、さらに不幸は続く。


「国王様の話だとここら辺にいるはずだ」

「とにかく探せ!」


黒龍騎士のものと思われる話し声が遠くから聞こえてくる。

幸いにも俺たちの姿は捉えられていないが、それは相手の黒龍騎士もまた然り。

こちらも、彼らがどの方向から来ているのかは推測できない。


「船の中に隠れましょう。相手がいる方向が分からないときに動くのは危険だわ」

「賛成だね。相手との差を縮める結果になったら最悪だ」


ツバーナの安全策に乗り、俺たち4人は船の中で息を潜めながら辺りを伺う。

まだ黒龍騎士の姿は見えない。


「マズいわね。古代魔法を使って姿を消している可能性があるわ」

「それって・・・気づかれている可能性があるってこと?」


話し声が聞こえたことから、黒龍騎士たちは近くを捜索していると考えられる。

しかし、草原というシチュエーションにも関わらず、敵の姿が一切見えないのはおかしい。

緑色の中では目立つ黒色の鎧を着ているのにも関わらず。


「今すぐ逃げましょう。今なら見つかっている可能性も低いから大丈夫よ!」

「何が大丈夫なんだ?」


低い声が頭上から響いてきて、俺たちは総じて固まった。

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