『128、エルフの国へ(Ⅳ)』

「壊れている箇所はどこにもないわ。これから問題ないわね」

「じゃあ・・・ついにエルフの国に行けるのね」


アリナお姉さまがワクワクしていると分かる、無邪気な笑みを浮かべた。


「さっさと行きましょう。他の人に嗅ぎつけられると厄介よ」

「よし。エルフの国にいざ出立!」


俺の号令とともに船は出発し・・・3秒も経たないうちに滝つぼに沈んだ。


「ちょっと!」

「何で沈むのよ!」


アスネお姉さまとアリナお姉さまが慌てたように息を止めるが・・・やがて異変に気づく。

そう、水の中にいるはずなのに息は出来るのだ。


「いきなりだったからビックリしちゃった・・・」

「死ぬかと思ったわよ」


2人がいきなりグッタリしているところで、ツバーナが顔を歪めた。

そして鋭い視線を進行方向に向ける。


「もうすぐ船を止めるわよ。一応は戦闘の準備をしておいた方がいいかもしれないわ」

「分かった。エルフ国王が敵でも配置したのかな」


俺が杖を構えたところで船が止まり、右手にそびえたつ岩から1人の男が出て来た。

王冠をかぶっている高齢のエルフだ。


トパーズ色の瞳は鋭くこちらを射貫いており、口元も引き締まっている。

明らかに不快だと言わんばかりの表情に怒りが湧いた。


「よく来たな、グラッザドの者ども。私がエルフ国王のレアガ=オースじゃ」

「グラッザド王国の第1王子、リレン=グラッザドです」


まずは冷静に答えて先手を打つ。

激昂してくると踏んでいたであろうレアガが一瞬たじろいだが、すぐに態勢を立て直した。


「まずは歓迎しよう。よくぞここまでたどり着いた」

「僕ではなくてツバーナのおかげですよ。随分と立派な娘さんですね」

「そうか。愚かな娘でもそなたたちの役に立って良かったわ」


激しい舌戦が繰り広げられる。

俺とレアガ以外は口を挟める雰囲気ではなく、ひたすら押し黙るしかない。

ただ、俺も高齢のエルフ特有の威圧に飲み込まれそうなわけで。


「そろそろ終わりにしていただけませんか。早く囚われの友人を助けたいんですが」

「まあ、そうだろうな。騎士団50000人の包囲網を突破してみぃ!」


レアガがそう言った途端、もの凄い激流が俺たちが乗った船を猛スピードで押す。

前世でいうジェットコースターを思い出すな。


「ちょっ・・・酔うってぇ!」

「何でこの激流の中は操作が効かないのよぉ!」


船の中では、阿鼻叫喚とした地獄絵図が広がっていたのだった。

それにしても黒龍騎士50000人か。

実際には彼らだけではなく一部の住民たちも敵となるため、相当厳しい戦いになるだろう。


「待っててイグル。絶対に包囲網を破ってやる」


俺は静かに呟く。

エルフの国に降り立つまで、あと4分に迫っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る