『115、閑話 執事の怒り (カルス視点)』

どうして私はそばにいなかったのだろう。

戦いの極意もある自分さえいれば、主であるリレン様の暴走を止められたはずなのに。

ロープで敵兵を縛りながらも、僕の中には後悔が渦巻いている。


「それにしても王太子直々に出陣していたんですね。イワレス王国はどうしたのでしょう」

「お前たち・・・我が国について何か知っているのか?」


フェブアーがかなり遠回しに伝えると、こちらの言わんとしていることをレウムは読んだ。

さすが4国連合で1番の大国の王子だな。


「口の利き方を弁えろ。お前たちは私たちの主であるリレン様を傷つけたのだぞ?」

「申し訳ございません。祖国で何があったのでしょうか」


一瞬だけ悔しそうな顔をしたが、今は祖国の情報を知るのが先決だと思ったのだろう。

こちらの要求に対して素直に応じた。


「特別に教えてやろう。イワレス王国はアラッサム王国とカイラス帝国から攻められた」

「何っ!?カイラスはともかくアラッサムだと?」


カイラス帝国は、イワレス王国の西に位置する軍事主義の国だ。

両国はもう50年以上にわたって戦争を繰り広げているが、未だにイワレスが勝っている。

その主たる原因は国力の違いだろう。


イワレス王国は兵士の練度こそ低いが、豊かな穀倉地帯を持っており兵の数も多い。

逆にカイラス帝国の兵士は非常に強いが、国土が山なりで食料不足に悩まされている。

ゆえに戦争をして農地を確保しなければならないのだが。


「ええ。使者として来たアラッサムの兵士からの情報ですから間違いありません」

「あの国がっ!私がいない隙を見計らって裏切ったか・・・」

「悔しいですか?」


僕は禁断の質問を口にした。

目の前にいる王子の答えによって攻める国が違うから、運命の分かれ道といってもいい。

さあ・・・君はどっちを選ぶ?


「愚問だな。身が焦がれるほど悔しいに決まっているだろう!」

「そうですか。実は僕たちもアラッサム王国には深い恨みがあるのですよ」


ここからが腕の見せところである。

イワレス王国と共闘するように見せかければ、2国を一気に食い破れるのだから。


「彼らは、他の3国に邪魔をされないように、我が国を故意に敵視させたのですよ」

「そうだったのか。つまり我が国はアラッサムの手のひらで踊らされていたってことだな」


理解が早くて助かるな。

後は共闘の約束さえ結んでしまえば、心置きなくアラッサムを攻められるというものだ。

大将のエーリル将軍とリレン様が許せば。


「グラッザド王国の皆さん、本当に申し訳なかった。勝手だが我が国に力を貸して欲しい」

「どうしましょうかね・・・。条件は如何ほどで?」


時計屋として商売をしている家の出身だから、商売の基礎はちゃんと叩きこまれている。

さあ、交渉のスタートだ。

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