『23、お披露目パーティー④~アリナお姉さまのサプライズⅡ~』
黒の影討伐を決意した2人は、他の冒険者にバカにされながらも情報を集めていく。
そして、とある店の地下がアジトになっていることを突き止めた。
「ここがアジトか・・・。気を付けてね。不本意だけどお前に頼ることになるから」
「分かってる。お前は俺の背後を見ていてくれ。虚を突かれるのは避けたい」
ホブラックはそう言うと、地下へと続く扉に手をかける。
その瞬間、ひんやりとした空気があたりを包んだ。
「・・・っ!氷魔法だな。恐らく侵入者がいた場合、この魔法が発動する仕組みだ」
「それ危なくない?発動させちゃったから、中から人が・・・」
「おい?誰だ?」
低い声が響き渡ったと思うと、舞台袖から数人の男が出てきた。
先頭にいる、水色のマントを翻している騎士風の男がリーダーってわけか。
「お前は、聖騎士のグリーソン!?黒の影の一員だったのか!」
え?グリーソンさん!?あの穏やかな料理長が、聖騎士で黒の影の一員!?
「そうだよぉ。ここの護衛をリーダーから任されていてね・・・。2人とも覚悟は出来てるぅ?」
この声は間違いなくグリーソンさんの声だ。
ただし、ねちっこさと黒さが10倍増しになっているが。
「当たり前だ。グリーソン聖騎士。覚悟してもらうぞ!二ノ型、明光斬!」
「フッ・・・甘いわぁ!そんな柔い剣術で私を倒せるとでも?四ノ型、桜花絢爛!」
グリーソンはそう言うと、剣を横に払った。
あたりに桜の花が舞い散る。本当に技を使っているからすごいよなぁ・・。
「グッ・・・目くらましか・・・。奴はどこに行った!?」
ホブラックは桜の花吹雪に邪魔され、グリーソンを見失っている。
彼は、後ろで剣技を見守っていたブルートの後方に現れ、剣先で背中を小突いた。
「何だ!?ゲッ・・・お前がどうしてここに・・・」
「戦場で背中を無防備に晒すなんて、さすが最弱冒険者だなぁ!今、私は君を殺すことも出来たんだよ?助けてあげたんだから、少しは愉しませてね?」
「バカにしやがって・・・一ノ型、雷撃!」
「全く、君は何を見ていたの?こんな初歩の技で私を倒せるわけないでしょ?」
グリーソンはブルートの多段攻撃を危なげなく避けている。
かすりもしない。圧倒的な実力の差が両者にはあった。
「残念だなぁ。君は私を愉しませてはくれないようだ。五ノ型、光の裁き!」
「何だ、その技・・・。1回しか斬っていないはずなのに5回も斬撃が飛んでくる・・・」
「ハハハハハ!もっと苦しめ!もっと憎め!憎悪こそ最高のスパイスだぁ!」
狂ったように何度も剣を振り、斬撃を飛ばしていくグリーソン。
ブルートの体には徐々に生傷が刻み込まれていく。
『このままじゃブルートが負けちゃうね!みんな、ブルートを応援しよう!』
アリナお姉さまのアナウンスが入ると、子供たちが必死の形相で応援し始める。
これがヒーローショーの演出だ。子供たちの必死の応援にグリーソンは大きく顔を歪めた。
ちなみに本来は冒険者たちが応援していたそうだ。
最弱冒険者にも応援者はちゃんといたんだよ。
「外野がゴチャゴチャと・・・風の障壁」
途端に風の壁が舞台と参加者の間を取り仕切る。もちろん演出なので威力は弱い。
「ここまでみんなが応援してくれてんだ!負けるわけにはいかねぇな!」
怒鳴ったブルートの体から4色の光の柱が伸びていく。
赤、茶、緑、青。それらの光は結界を作り、グリーソンの攻撃を通さない。
ランプのような魔導具に色のついた薄い紙を張っているのか。
結界はフタンズさんの指輪かな?演出がもの凄く凝っている。
「これで形勢逆転だ!#氷の槍 __アイスピック__#!」
「な・・・最弱冒険者が詠唱破棄だと!?どうなっているんだ!」
氷の槍を避けながらグリーソンがぼやく。
その間にもブルートは様々な属性を駆使して追い詰めていた。
火の玉を出したと思ったら#風の刃__エアカッター__#。土の壁が出てきたと思ったら#水線__ウオーターカッター__#。
「くそ!くそくそくそ!この私が最弱冒険者風情に負けるだと!?」
マントはビリビリに破れ、鎧には血が滲んだ無残な姿になっていくグリーソン。
そしてついに、1発の風の刃が彼の鎧を深く切り裂いた。
グリーソンがその場に崩れ落ちると同時に、聖騎士たちがわらわらとなだれ込んでくる。
最も、聖騎士だと思ったのは、グリーソンと同じ鎧やマントを身に着けていたからなのだが。
「聖騎士長のイエローザでございます。この度は部下の失態、お許し下さい」
イエローザ役はミラさん。いつものローブ姿じゃないのは何か新鮮だな。
「いいですよ。それよりも早く捕まった恋人と会いたいのですが・・・」
「アジトはホブラックさんという冒険者とともに散策させているはずです」
そう言ってイエローザがドアに目を向けるのと同時に、ホブラックが20人ほどの女性を連れて出てきた。恐らく今ま
でに囚われてた女性たちだろう。
もちろん、彼女らは全員メイドたちだ。
その集団の中から1人の女性が出てきて、ブルートに抱き着く。
何を隠そうブルートの恋人、エリールである。
こうして、ブルートとエリールは感動の再開を果たす。
「ブルート!良く助けに来てくれたわね!」
「ああ。それと俺、魔法使えるようになったぜ。みんなのおかげだ」
「じゃあ、みんなにお礼を言わなくちゃね」
「ああ、そうだな。みんな、ありがとうな」
参加者に向かって一礼するブルート。子供たちから歓声が飛び、彼は微笑む。
ヒーローショー要素、大成功じゃん。
舞台は変わって王城。ブルートとホブラックの前にいたのは国王もとい父上である。
黒の影を討伐した立役者は、ボスを倒したブルートと、囚われていた女性たちを助けたホブラックだということで、王城に呼び出されたのである。
「この度は黒の影討伐への協力、感謝する」
「ははっ、ありがたき幸せ」
「国王様直々のお言葉だけでも、もったいないほどにございます」
臣下の礼を取ったまま凛とした声で答える2人。
「そして、褒美だが・・・ブルートを副騎士団長に任命し、ホブラックを宰相に任命する」
「え・・・私が副騎士団長でございますか?」
「宰相ですと!?私めにそのような大役など・・・」
情報の処理が追い付かないのか、2人は困惑の表情を浮かべた。
「では、ブルート副騎士団長、ホブラック宰相、頼んだぞ」
わざと役職付きの名前で呼び、鋭い眼光を2人に浴びせる父上。
「「ははぁ!これから精進していく所存!」」
もうノリと勢いだと言わんばかりである。こんなの断れないよねぇ・・・。
『実はこの時、前任の副騎士団長と宰相が不正で追放されており、早急に穴埋めが必要な状態だったのです。そのため、2人は王城にスカウトされ今でもご活躍されています』
そのナレーションと共にブルートとホブラックが礼をし、会場が明るくなった。
これでアリナお姉さまのサプライズ劇が終わったということか。
それにしても本人出演の多い、大胆な劇だったな。
俺のフルーツタルトが霞んだりしないだろうか。
参加者の反応も上々で、頬を紅潮させている少年もチラホラ見受けられる。
すると、アリナお姉さまがこちらに向かって走ってきた。
「どうだった?私が考えた劇は」
「凄かったよ。演出がかなり豪華だったね」
率直な感想を言うと、顔を分かりやすく崩すアリナお姉さま。
「えへへ・・・ありがとう。さあ、明日はリレンの番だよ!」
「そうだね。劇で霞まないかなぁ・・・。え?明日?」
聞き返した俺を、アリナお姉さまが訝し気に見つめる。
これからタルトを作ろうと思ってたのに、出鼻をくじかれた気分だ。
「そうよ。聞いてなかったの?パーティーは2日行われるの」
「なるほど。今日のパーティーはアスナお姉さまが。明日のパーティーは俺がサプライズを行うってことね」
それなら明日のパーティーが始まる前にタルトを作ればいいってことか。
俺は嬉しく思う反面、まだ1回しか攻撃してこない依頼者の存在が不気味に感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます